第4話

だから飛び起きたあたしは

すぐに助手席から出ようとした。

でも遅かった。


いや。

そうでもない。



運転席にいきなり乗り込んできたそいつが、

シフトレバーを軽く下ろして

さらにサイドブレーキも下ろして

早々にアクセルを踏んで

駐車場を走り始めたから。


寝起きだろうと、

あたしの動きが鈍くさかったわけじゃない。


おそらく。




そいつが乗って

まだ10秒も経ってないぐらいだし。



それはともかくね。




「やっべ、すげースピード出んじゃねえか!歩きと比べ物になんねえよ!人もいねぇし飛ばすか」





ゴッ!

ガガガ ゴゴゴ ガガガガガ。



文字に起こすとしたら

実際にこんな感じの音がした。

アスファルトを走ってるのに

砂利道を走ってるみたいに車体が揺れる。


タイヤ外れんじゃないの。


無意識にシートベルトを握りしめていた。



「わはは!ヤベェな、ヤベェよ!俺が歩いてきたあの数時間はなんだったんだよ!」




ヤバいのはお前だ。





あの周りに何もないようなコンビニに

彼氏を置いてきちゃったのは

なかなかおもしろいからさておき。


助手席で膝を抱えて

振動に耐えていたあたしは、

運転席にいる奴を見た。




すると向こうとも目があった。

いや。前見て運転しようよ。




「誰、なの」




ぼそっと口にするあたし。

昨日から付けたままのグロスが

じんわりと唇にまとわりついた。


当然返事は期待してない。


だってそいつときたら、

一旦スピード落とした隙に

ウィダーインゼリー口に咥えたから。

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