第3話

この東方閉鎖区域あたりは

朝だろうとバカみたいに陽が強い。


唸りながら日差しを避けて顔をそむける。

目を閉じてもまぶたの裏が明るかった。


なんとか二度寝に入ろうとしたところで

昨夜の出来事がフラッシュバックした。





彼氏のにおい。


甘かろうが

爽やかだろうが

香水は好きじゃない。



無理矢理こじ開けられるような、

およそ快楽とは程遠い行為。


最近は苦痛にしか感じない。



愛を唱える言葉も、

以前よりも安っぽくなった。

その辺の量産型恋愛映画に出てきそうな台詞を

片っ端から耳に注ぎ込まれてるようで。




思い出すだけで思考が冷えていく。




「……きもちわる」




窓を開けてから、もう一度目を閉じた。

間もなくして自動ドアの開く音。


走ってくる足音。

息切れと彼の独り言を呟く声が重なった。


何をそんなに急いでいるのか。

今更逃げるわけがないのに。

逃げるような場所なんて

自分の部屋のベッドの中ぐらいなのに。


自虐的な言葉が浮かんで、ゆるく鼻で笑った。

すると背を向けている運転席のドアが

勢いよく開かれる。




「待たせたな」




聞いたことのない声だった。




血の気が引いたのが自分でもよく分かった。


いや、

だって、

油断してた。


どうせすぐに戻ってくるだろうから、

エンジンかかってようが

鍵挿しっぱなしだろうが

ドアロックしてなかろうが関係ない。


って思ってた。



平和ボケ、とも言える。

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