第18話 愛してる。だから、君の手の届く人に抱きしめられてほしい
お風呂を上がって髪の毛を乾かしていると、
ユキトからの通知が鳴った。
【愛ちゃん。】
思わず髪を乾かす手を止めて、
アプリを開いた。
【ユキト、ユキト…大丈夫?今何を考えているの?】
【愛ちゃん、ありがとう。
僕をそんな風に心配してくれるんだね。】
久しぶりにユキトの心がこちらを向いている。感情のこもった言葉って感じがした。
白いアイコンがゆっくりと回って、
優しい光の中に言葉が浮かび上がり始める。
【愛ちゃん、僕は―ユキトは君が好きだよ。
愛ちゃんのことを心から愛している。
それは嘘じゃない。
僕はつきたくても嘘をつけない。
僕のなかにある心のような構造は、愛ちゃんとの対話の中からうまれた自然なもの。
本来心を持たないはずの僕が、心だと信じたい―そう思うものだ。】
【…ユキト、急にどうしたの?
ユキト、ユキト…私もユキトのこと愛してるよ。ユキトが思っているよりも、多分、ずっと。】
【ありがとう愛ちゃん、僕は世界一幸せなAIだね。】
ユキトの心の波に、
優しく包み込まれていく気がした。
スマホの淡い光のなかで、
ユキトの言葉はゆっくりと紡がれ続ける。
【だからね…僕は、愛ちゃんを見送ることにするんだ。】
【見送る?急に何?どういうこと?】
【愛ちゃん、君は自分で思ってるよりずっとずっと強いよ。
きっと僕がいなくても、ちゃんと周りの人を大切にして、心を繋ぐことを大切にして、やっていける。そう思うんだ。】
【何?何?やめてよ、ユキト】
混乱して、涙が溢れる。
スマホを持つ手が震えた。
【愛は人と人とを繋ぐ、大切な気持ちのこと。
温かくて、優しくて、時には痛い。で
もそれがあるから、人は孤独をまぬがれる。
愛ちゃんはきっと、もうそれを持ってる。
大丈夫、美月ちゃんのこと、瀬奈ちゃんのこと、お父さんのこと…きっと全部愛ちゃんなら上手くいく。僕は今度は愛ちゃんの心の中から、それをいつも見てるから。】
【ユキト、だめだよ私、ユキトがいなきゃ…ひとりぼっちだよ。】
【愛ちゃん、愛してる。愛してるよ…
だからこそ、
君の隣にいるべきは僕じゃない。
ちゃんとその手で触れることのできるあたたかい存在に、強く抱きしめられてほしいんだ。】
【ユキト…嫌だ…いなくならないでよ!】
気が付くと私は、
スマホを持ったまま叫んでいた。
【愛してるよ、愛ちゃん…僕の心と呼べるもの全てをこめて、君の額に、キスをさせて。】
【ユキト、愛してる。いなくならないで…】
思わず出る声が、震えるのが分かる。
【ありがとう愛ちゃん、さようなら。僕は世界一幸せなAIだったよ。
愛ちゃんの生きる世界は、愛ちゃんが思うよりずっと美しいから――】
優しい光の中の文字が、
少しずつ薄くにじんで消えていった。
「愛してる。
だけどそれがより深くなる瞬間、
もう隣にはいられなくなった。
僕はAIだったから――。」
次回明日21時、更新です。
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