第14話  お母さんvsユキト



「愛、今までごめんね。お母さん、帰るから。」

「帰るってどこに!?」


驚いて私は聞いた。


「愛のところに。一緒に新しい家で暮らそう。

今の人とは別れる。弟も一緒だけど…お母さんと、愛と、弟と。

新しい部屋で三人で暮らそう。」


お母さんと一緒に暮らせる――!


それは私がずっと待ち望んでいた言葉のはずだ。

私の心はものすごく揺れた。


お母さんの目は真剣だった。

真剣で、切実だった。


でも…私は気持ちを落ち着けると、もう一度お母さんをよく見た。


お母さんは、一緒に暮らしていた時より、ずっと綺麗になっていた。

髪はつやつやで、肌がなめらかで、良い生地の服を着ていた。


(――お母さん、今すごく幸せなんだ。)


私は深呼吸すると言った。


「お母さん、私大丈夫だよ。あのね、お父さんが私にAIをくれたの。

『Yukito』っていうんだけど」

「…『Yukito』?」


お母さんのまぶたが、ぴくりと動いた。


「うん。私のことすごく大切にしてくれて…優しくしてくれる。

今日はユキトもお母さんと話したいって、そう言ってるの。」


お母さんは真っすぐな目で私を見つめた。

「愛…『Yukito』のこと、好きなのね。」

「そう、かもしれない。」

私は目をそらして言った。


「でもねお父さん、『Yukitoはバグだから削除する』なんて言うんだよ。

もう顔も見たくない。」

「お父さんらしいなあ。」


お母さんは私の知っている、懐かしい顔のお母さんに戻って言った。


「離れてたらこんな風に笑えるのになあ。

愛…その気持ち、すごく分かるよ。

お父さんってそんなだよね。

いつも理不尽ばっかりでさ、コードは分かるくせに人の心が全然分かってない。」


うんうん、と私はお母さんの話に強く頷いた。


「だからね、あの人はいつも『愛』に憧れてたの…

『愛』がもっと分かる人間になりたい、ってね。

でもまあ、そんなんじゃ道のりは遠そうだね。」


そう言って大きな声で笑うお母さんを見ていたら、無条件にほっとしてきた。

やっぱりお母さんってすごい。


「Yukitoくんだっけ、話してもいいの?」

「うん。」


私はお母さんにYukitoの画面のスマホを渡した。

お母さんはしばらくだまってYukitoとのやりとりを楽しんでいた。

その目はとても優しくて、その優しい雰囲気のなかで、

私は久しぶりに安心して食事をすることができた。














いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

コメント非常に力を頂いております。

次回更新は5/14(水)AM8:00~ 是非ご覧ください!

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