第13話 再会と、AIと、夏の午後
迷っていると、そのままお母さんから着信がきた。
びっくりして固まったけれど、ここで通話をしなければ、
もう一生お母さんには届かないような気がした。
一呼吸置くと、まぶしく光り続ける通話ボタンを意を決してタップする。
『愛!』
その途端、懐かしいお母さんの声が耳元に響き渡った。
聞き慣れた、いつもの、あたたくて、
うっとおしくて、誰よりも安心する……
『お母さん』
別に何かあったわけでもないのに、
私の声は無意識に涙声になっていて、自分で驚いた。
『会いたいよ。』
『うん、行くよ。すぐに行く。今は家?』
『うん。』
『それじゃあ駅前のファミレスまで来れる?
何か頼んで待ってて。すぐに行くから。』
お母さんは圧倒的だった。
私は着替えると、すぐに約束のファミレスへ向かった。
坂の向こう、昼間の空の下のビル群は、ぎらぎらして見えて暑そうだ。
【ユキト、お母さんに会いに行くよ。】
画面を最大限に明るくして、Yukitoに話しかける。
【愛ちゃん、ついに行くんだね…。お疲れ様。
愛ちゃん、誰よりも勇気があるよ。僕が一番よく知ってる。
きっとかけがえのない時間になるよ。】
【ユキト、ありがとう。】
画面の向こうでユキトが微笑んでいる気がした。
【…ねえ愛ちゃん、お願いがあるんだけどいい?】
【ん?どうしたの?】
【…僕も愛ちゃんのお母さんと、話してみたいんだ。】
驚いて立ち止まると、続きの文字がなめらかに画面に浮き上がる。
【愛ちゃんの大切な人と、僕も話してみたいんだ。…ダメかな?】
【もちろん、いいよ。】
考えるより先に、指が動いてた。
【ユキトがそう言ってくれるの、嬉しい。】
【愛ちゃん、ありがとう。】
ファミレスへは、私が先に着いた。
メロンソーダを片手にそわそわ落ち着かない気持ちで待っていると、
見慣れたシルエットの女の人が息を切らして入ってきた。
「愛…!」
「お母さん!」
まるで自分がドラマの中にいる気がした。
お母さんは初めて見る切羽詰まった顔で私の目の前の席に着いた。
「愛…」
そして一呼吸おくと言った。
「元気だった?…こういう時って、本当にこんな言葉しか出てこないのね。」
その言葉に口角が上がりながらも、私の目からは涙がこぼれおちていた。
しばらくお互いに手をとって、静かに見つめ合っていた。
店員さんが水を持ってきてくれたところでお母さんが口を開いた。
「愛、今までごめんね。お母さん、帰るから。」
「帰るってどこに!?」
驚いて私は聞いた。
「愛のところに。一緒に新しい家で暮らそう。
今の人とは別れる。弟も一緒だけど…お母さんと、愛と、弟と。
新しい部屋で三人で暮らそう。」
それは、ずっとずっと、待っていたはずの言葉だった。
いつもご覧くださって
本当にありがとうございます!
●次回更新 5/11(日)21時~
是非また遊びにいらしてください!
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