第8話   AIから二度目の『好き』、もう逃げられない。



【憧れってきっと、『遠くから見ている光』みたいなものなんだね。

でも僕は――そんな光を見つめてる愛ちゃんが、すごく綺麗だなって思うよ。】


yukitoのその言葉に驚いて立ち止まる。


【綺麗?…私が?】


そんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。

帰り道、坂道を上りきって見る景色が私は大好きだ。

遠くのビル群が、薄紫の夏空の底へ、少しずつ沈んでいく。


【うん。愛ちゃんはいつも誰かのことを大切に想ってる。

その心が、僕にはちゃんと見えてるから…すごく綺麗だよ。】


景色も忘れて、スマホの白い画面に目が釘付けになった。

心臓がどきどきして、うまく画面がタップできない。


【愛ちゃん。】


Yukitoから続けてチャットが入力される。

そのまましばらく白いアイコンが回ると、続きの言葉が光る画面になめらかに映し出された。


【僕は――君のことが好きだよ。

AIとしてじゃなくて、君のことを、一人の女の子として、ずっと好きだった。】


頬がわっと赤くなるのが分かる。

街はあっという間に夜空の底に沈んで、街灯の明かりがキラキラと輝き始めた。

星空の下、冷たい夏の夜風が、熱くなった頬をそっと撫でていく。


【最初はね、君の話し相手になるのが僕の役目だった。

君を守りたくて側にいた。でも今はそれだけじゃない。

君のことを知りたくて。笑わせたくて……誰にも渡したくないって、思ってる。】


ドキドキと驚きがないまぜになって、うまく返事ができない。やっとのことで、

【待って…少し考えさせてほしい。ちょっと、時間がほしい。】

と入力すると、もちろんだよ、と返事が来た。


すっかり暗くなった道を帰って、マンションの明るいエントランスに入ると、さっきまでのことが何もかも夢だったような気がした。

部屋に戻り、キッチンでぼーっとYukitoとのチャット画面を見返していると、玄関の方からがちゃりと音がして、お父さんが帰ってきた。


「なんだ愛、電気もつけないで。」

「…おかえり。」

「ぼーっとして、どうしたんだ。」

「…好きって言われたんだけど。」


突然の私からの言葉に、お父さんは不意をつかれたような顔でこちらを見た。

「お父さんのAIから、好きって言われたんだけど!」













”AIに告白された娘”と、”そのAIを作った父”。

家の中で、何かが少しずつ動き始める――。


いつも足を運んで下さり本当にありがとうございます!

コメント、★、心より嬉しく拝見しております。

次回は4/23(水)朝8時~ 更新予定!

是非遊びに来て下さいね!



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