妹の力

「ごわす。ごわすごわす」

「あっ、あぉっをわ。ありがとう。ござょます」

 まだ、ずきずきと痛む、でこちゃんに、冷たいタオルをあてる。

 ずきずき、ずきずき。ずきずき、ずきずき。

 好き。

 やばい。

 痛んでいるのは、おでこじゃなくて、私の恋心だ。

「あっ、あの、」

 恐々と尋ねる。

「ごわす?」

「お名前は、」

「ごわす」

「ごわす、さんで、ごわすか?」

「ごわす」

「ごわすごわす」

「ごわすー」

「ごっごっわ、ごっすごわす」

「ごわごわす」

 以心伝心。

 サボテンは人の心が分かる。なんていうから。

 なら、さつまいもが人の心を理解できてもおかしくない。

 ごわすとごわす。

 ごわすで、通じる、恋心。

 私のごわすと、ごわすのごわすが、一心同ごわす。

 ごわすトゥごわす。

 ごわすとごわすをごわすしようと、した刹那ごわす。

 がらがらと保健室の扉が開いた。

「あかねさーん」

 保険室の先生、薬丸先生の、甘く優しい声がベッドのカーテンを揺らす。

「ごっ、ごわ、ごわすご」

 ごわすは、ベッドの下に身をごわす。

 隠れた瞬間。

 カーテンが、しゃっと開く。

「あかねさーん、あら、起きてるの? おでこ、もう、痛くない?」

「ごっ、ごわ。どっ、だわ、だっどっ。だっ、大丈夫です」

「あかねさんの大丈夫は、大丈夫じゃない時多いからなー。ちょっと、見せて。ああ、うん。傷は残らないと思う。さっき撮ったCTも特に異常は見当たらなかったし」

「そ、そそ、そそそそそうですか」

「うん。どうする、お母さんに迎えに来てもらう?」

「いいいいえ、ひひひ一人で、帰れますから」

「そう。それじゃあ、お大事に。あれ? そういえば、ここにあったさつまいもは?」

「あああ、くくく、くく、クラスの子がさっき、来て、そそそ、その子が、ももも持って帰っててて」

「ふーん。そうなの。ねえ」

「ははははい?」

「うーん。うーん。その。クラスの子とは仲良く、違うな。楽しく。うーんと。その、」

「だだだ大丈夫でする。ううまくやってます」

「そう。じゃあ、これ」

「これは?」

「泥だらけでしょ、帰るなら、それに着替えて、帰りなさいって。クラスの子が着替えを持って来てくれたのよ」

 クソダサ紫ジャージには、ゴリラゴリラゴリラの学名が書かれていた。

 抱えた瞬間、軽くて。

 芳しい香りがした。

「じゃあ。着替えるんでしょ? カーテンを閉め、えっ、えっえっえっ、やっ、っっっきゃっきゃーああああ」

 薬丸先生が、カーテンを掴み、思いっきり、引っ張る。天井のレールから外れ、金具が床に落ちる。

「いやっ、いやいやいやっ、いやー、変態」

 先生の目線の先、私もベッドから身を乗り出して、覗くと、さつまいもから完全変態した完全変態が、ベッドの下から、頭だけを出して、こわごわと、こちらを見つめていた。

「あああ兄です」

 さてさて、はたして、この嘘で乗り越えられるのだろうか?

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