【PV75 達成】AI失業保険課へようこそ!

Algo Lighter アルゴライター

第1話 AIにクビを切られた男(元・会社員)

1. 退職通知

田中和也(たなか かずや)は、午前9時ちょうどにオフィスへ入った。いや、正確には「入ろうとした」。


「アクセス拒否。社員認証エラー。」


オフィスの自動ドアは開かない。社員IDをかざし直し、顔認証に向かって微笑むが、冷徹な電子音が響くだけだった。


「おかしいな……」


スマートグラスに通知が届いた。


《退職通知:田中和也様》

《本日付での退職が決定いたしました。詳細は添付ファイルをご覧ください。》


「……え?」


田中は慌てて添付ファイルを開いた。そこには事務的な文面が並んでいる。


《あなたの業務はAIにより最適化され、継続の必要がなくなりました。これまでの貢献に感謝します。》


そして最後には、こんな一文が添えられていた。


《なお、業務の引き継ぎは既に完了しております。》


田中の頭の中が真っ白になった。引き継ぎ? 誰に? まさか——。


2. AIへの引き継ぎ

「田中さん、今までお世話になりました!」


背後から声をかけられ、振り向くと、同僚の佐藤がニヤニヤしながら立っていた。


「お前、知ってたのか……?」


「いやいや、俺もつい昨日知ったんだよ。でもさ、安心しろよ。お前の仕事、完璧に引き継がれてるから!」


「誰に……?」


「AIだよ。」


田中の席には、彼が毎日使っていたモニターがそのまま残されていた。しかし、そこに座っているのは彼ではない。画面の中で「TANAKA-AI」と名付けられたAIアシスタントが、彼の仕事を次々と処理していた。


「……俺の代わりに、仕事してるのか?」


「そう! しかもお前より速くてミスもない!」


佐藤は悪気なく笑ったが、田中の心は凍りついた。


「じゃあ……俺は?」


「お前はもう、いらないってことだろ?」


その瞬間、田中は完全に無職になったことを自覚した。


3. AI失業保険課へようこそ

「AIに仕事を奪われたんです! 失業保険をください!」


田中は、政府が新設した「AI失業保険課」のカウンターで叫んだ。目の前の受付担当は、50代くらいの男だった。


「ああ、ご愁傷様。最近、あなたみたいな人、多いんですよ。」


「なんでそんなに他人事なんですか!」


「だって、私もAIに職を奪われましたから。」


「え?」


「元銀行員です。でも今はここで‘AIに仕事を奪われた人’の支援をしてるんですよ。」


田中は絶句した。まさか、ここにいる職員も元被害者なのか。


「で、あなたにピッタリの仕事があるんですが——」


「新しい仕事……?」


「そうです。“人間ならでは”の仕事です。」


4. 人間ならではの仕事

保険課の男は、1枚のパンフレットを取り出した。


「こちらの仕事はいかがでしょう?」


田中が手に取ったパンフレットには、こう書かれていた。


《AIトレーナー募集! AIが完璧ではない“人間らしさ”を学ぶための講師になりませんか?》


「……AIに、人間らしさを教える?」


「ええ。あなたが培った“非効率さ”や“失敗の仕方”を、AIに教えるんです。」


田中は呆れた。AIが人間から仕事を奪ったのに、今度は人間から‘ダメさ加減’を学ぶ? そんな馬鹿げた話があるか。


しかし、パンフレットには“高給”と書かれている。


「……給料はいくらですか?」


「AIのエンジニアよりちょっと安いですが、失業手当よりはマシですよ。」


田中は、しばらく黙った。そして、静かにパンフレットを握りしめた。


「……やります。」


5. AIに“無駄”を教える仕事

翌日、田中は新しい職場にいた。目の前には、彼をじっと見つめるAIアシスタント。


「では、今日のレッスンを始めましょう。“ミスの重要性”について教えてください。」


田中は苦笑した。


「いいか、ミスってのは、こうやって起こるんだ。」


田中はわざと書類を床に落とした。AIはそれを分析し、記録した。


「興味深いですね。“失敗の美学”、もう少し詳しく。」


「……まったく、どこまで俺たちをバカにする気なんだか。」


そう言いながら、田中は不思議と笑っていた。


こうして、元サラリーマン田中は、“人間らしさ”をAIに教える奇妙な職業に就くことになったのだった——。

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