第53話


試着室は、異様な緊張感に包まれていた。時価2億円とも言われるIn.heavenのウェディングドレスを前に、体型を全く考慮せずに予約してきた女性たちは、無理やりドレスに体を押し込もうとしていた。


「あの…、お客様、少し苦しいようでしたら、無理なさらないでください…。」佐藤ひとみは、心配そうに声をかけた。


「大丈夫よ!痩せて見えるわ!すごく素敵!」女性は、苦悶の表情を浮かべながらも、鏡に映る自分を必死に見つめていた。


しかし、その瞬間、悲劇が起こった。


「ビリッ…!」


けたたましい音と共に、ドレスの背中のファスナー付近の生地が、無残にも裂けてしまったのだ。


「きゃああああ!」


佐藤ひとみと田中直美は、悲鳴をあげた。


一方、破いてしまった本人は、何食わぬ顔で、平然と立ち尽くしていた。


「あら、やだ。破けちゃった。」女性は、まるで他人事のように、呟いた。


その様子を見ていたこずえシノハラは、我慢できずに、駆け寄ってきた。「ちょっと!あなた!何てことをしてくれるの!これは、時価2億円もする、大切なウェディングドレスなのよ!弁償してもらうわよ!」


こずえの剣幕に、女性は、たじろぎながらも、反論した。「でも、これ、もとから生地が薄いのよ!ちょっと力を入れただけで破けちゃうなんて、欠陥品じゃない!」


その言葉を聞いた菜々美は、静かに、女性に近づいた。そして、微笑みながら、その顔をじっと見つめた。しかし、その笑顔は、どこか不気味で、底知れぬ恐怖を孕んでいた。


「そうですね。確かに、もとから生地が薄かったかもしれませんね。」菜々美は、穏やかな口調で言った。


その言葉を聞いたこずえは、菜々美の腕をつかみ、小声で言った。「菜々美、何を言ってるの!このまま、この人に責任を逃れさせるつもり?!」


菜々美は、こずえに、目配せをした。そして、小さく首を振った。


次の瞬間、菜々美は、信じられない行動に出た。


「クソッ!」


小さく呟くと、手慣れた手つきで、裁縫道具を取り出し、破れたドレスに向き合い始めたのだ。


菜々美は、破れた部分を丁寧に縫い合わせ、さらに、その女性の体型に合わせて、大胆にデザインを修正し始めた。まるで魔法使いのように、針と糸を操り、

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