第43話
夜も更け、二人はすっかり打ち解けていた。酔いがまわり、互いの腹を割って話したことで、心の距離は、さらに縮まっていた。
「菜々美……いや、片岡社長。本当に、感謝しています。あなたがいなかったら、私は、今頃、どうなっていたことか……」
高橋香織は、涙目で、菜々美に感謝の言葉を述べた。
菜々美は、高橋香織の肩を抱き寄せ、笑顔で言った。
「いいのよ、高橋さん。もう、過去のことは忘れましょう。これからは、一緒に、アトリエシノハラを盛り上げていきましょう!」
二人は、グラスを高く掲げ、高らかに乾杯した。
「乾杯!」
その時、店の入り口に、一人の女性が現れた。
高井まどか。
彼女は、鋭い眼光を放ち、店内を見渡していた。やがて、菜々美と高橋香織を見つけると、凄い勢いで近づいてきた。
「社長!一体、どこにいるんですか!どれだけ心配したと思っているんですか!」
高井まどかは、激昂した様子で、菜々美に詰め寄った。
高橋香織は、高井まどかの剣幕に、圧倒され、身を縮こまらせた。
菜々美は、呆れたように言った。
「高井さん、一体、どうやってここを突き止めたの?それに、少しは、静かにしてちょうだい!」
高井まどかは、眉を吊り上げた。
「どうやって突き止めたかって……社長のスマホに、GPSが搭載されていることくらい、知っていますよ!それより、早く、会社に戻りますよ!明日は、朝から重要な会議があるんですから!」
菜々美は、面倒くさそうに言った。
「分かったわよ。分かったから、そんなに怒らないで。高橋さん、ごめんね。今日は、ここまでにするわ」
菜々美は、高橋香織に、名残惜しそうに言った。
「……いいえ、こちらこそ、ありがとうございました。今日は、本当に、楽しい時間を過ごせました」
高橋香織は、笑顔で答えた。
菜々美は、立ち上がり、高井まどかに向かって言った。
「高井さん、ここはおごるから、高橋さんと楽しく飲んで!私は、先に帰るわ」
高井まどかは、目を丸くして言った。
「社長!何を言っているんですか!私が、この人と一緒に飲むなんて、ありえません!」
菜々美は、高井まどかの言葉を無視し、高橋香織に、手を振って言った。
「じゃあ、また明日ね!高橋さん!」
そう言うと、菜々美は、高井まどかの腕を掴み、強引に店を出て行った。
店に残された高井まどかは、絶望的な表情で、高橋香織を見つめた。
「……社長!ちょっと待ってください!」
高井まどかは、店の外に向かって叫んだ。しかし、菜々美は、既にタクシーに乗り込み、走り去ってしまっていた。
高井まどかは、ため息をつき、高橋香織に向き直った。
「……仕方ありませんね。社長がそう言うなら、少しだけ、お付き合いしますよ」
高橋香織は、微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、お勘定は、私が払いますよ」
高井まどかは、即座に否定した。
「いいえ、ここは、私が払います。社長のおごり、ということにしておきましょう」
高橋香織は、高井まどかの言葉に、感謝した。
その夜、高井まどかと高橋香織は、ぎこちないながらも、酒を酌み交わし、互いの距離を縮めていった。
もちろん、お勘定は、高井まどかのおごりだった(笑)。
高井まどかは、心の中で叫んだ。
「社長!一体、何を考えているんですか!」
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