第33話


記者会見が終わると、会場は熱狂的な雰囲気に包まれた。記者たちは一斉にこずえに駆け寄り、マイクを突きつけ、質問を浴びせた。しかし、高井は冷静に対処し、こずえを囲むように立ち、混乱を鎮めた。


「皆様、落ち着いてください。本日は、シノハラ先生にお時間をいただき、誠にありがとうございました。個別取材のご要望については、後日、改めてご案内させていただきます。」高井は、テキパキと指示を出し、報道陣を整理していった。


こずえは、高井に感謝の言葉を伝えた。「高井さん、本当にありがとう。あなたがいなかったら、今回の記者会見は、成功しなかったわ。」


「先生、お気になさらず。私は、先生の力になれたことが、何よりも嬉しいです。」高井は、微笑んだ。


こずえと高井が、会場を後にしようとしたその時、高井は、突然、足を止めた。そして、マイクを手に取り、再び、ステージの中央へと歩み寄った。


こずえは、驚きを隠せない。「高井さん、どうしたの?」


高井は、マイクに向かって、力強く宣言した。「皆様、もう一度、お時間をいただけますでしょうか。」


再び、会場は静まり返った。報道陣は、高井の言葉に、耳を傾けた。


「本日、皆様にお伝えしたいことが、もう一つございます。」高井は、一呼吸置いてから、続けた。「私、高井まどかは、シノハラ先生と共に、新たなプロジェクトを立ち上げることを、ここに発表させていただきます。」


会場からは、どよめきが起こった。記者たちは、何が始まるのか、興味津々といった様子で、高井を見つめた。


「私たちは、シノハラ先生の才能、そして、菜々美さんの才能を、最大限に活かすべく、アトリエ・シノハラを再建することを決意いたしました。」高井は、力強く宣言した。「そして、シノハラ先生には、会長として、アトリエ全体を統括していただきます。そして…」


高井は、こずえの方を向き、微笑んだ。そして、再び、マイクに向かって言った。「そして、アトリエ・シノハラの代表には、佐藤菜々美さんにご就任いただきます!」


会場は、騒然となった。記者たちは、一斉にカメラを菜々美に向けてシャッターを切り始めた。


「アトリエ・シノハラは、シノハラ先生と菜々美さん、二人の才能が融合し、新たなファッションの可能性を追求していくことを目指します。」高井は、興奮気味の報道陣に向かって、語りかけた。「私たちは、過去の過ちを乗り越え、新たな未来を切り開いていくことを、皆様にお約束いたします。」


高井は、深々と頭を下げ、発表を終えた。会場は、拍手と歓声に包まれ、大騒ぎとなった。記者たちは、高井に、そして、こずえに、質問を浴びせようと、一斉に詰め寄った。


こずえは、高井の隣に立ち、笑顔で、報道陣に手を振った。今回の発表は、予想外の展開だったが、こずえは、高井の決断を全面的に支持した。


(高井さん、あなたは、本当に素晴らしいわ。私に、そして、菜々美に、新たな未来を、与えてくれた。)


こずえは、高井に心の中で感謝した。そして、菜々美と共に、アトリエ・シノハラを再建し、新たなファッションの歴史を刻んでいくことを、心に誓った。


その夜、こずえは、菜々美に電話をかけた。


「菜々美、聞いたわよね?高井さんが、アトリエ・シノハラの代表に、あなたを推薦したって。」こずえは、興奮した声で言った。


「うん、聞きました。びっくりしたけど…、嬉しかった。」菜々美は、照れくさそうに言った。


「菜々美、あなたなら、きっと素晴らしい代表になれるわ。私は、あなたの才能を信じている。」こずえは、励ますように言った。


「ありがとう、お母さん。私も、頑張ります。お母さんと一緒に、アトリエ・シノハラを、最高のブランドにしたい。」菜々美は、決意を込めて言った。


こずえと菜々美は、電話口で、互いの夢を語り合った。そして、過去のわだかまりを乗り越え、新たな未来に向かって歩んでいくことを、誓い合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る