第32話


数日後、こずえは高井の献身的なサポートを受けながら、菜々美がデザインした未完成のドレスの制作に没頭していた。細部にまでこだわり、菜々美の才能を最大限に引き出すべく、渾身の力を込めて針を進めていった。


その間、高井は事務所内外を奔走し、様々な手配をしていた。そして、ドレスが完成に近づいた頃、高井はこずえに、ある提案をした。


「先生、ドレスの完成後、記者会見を開きませんか?」


こずえは、手を止めて、高井を見た。「記者会見?何を話すの?」


「今回の騒動の経緯、そして、菜々美さんの才能について、先生の言葉で語っていただきたいんです。」高井は、真剣な眼差しで言った。「そして、何よりも、先生が菜々美さんのドレスを完成させたという事実を、世間に伝えたいんです。」


こずえは、少し迷った。再び、大勢の記者の前に姿を現すのは、気が進まなかった。しかし、高井の提案は、理にかなっている。今回の記者会見は、菜々美の才能をアピールする絶好の機会であり、自分自身の過去と向き合うためにも、必要なことかもしれない。


「わかったわ。高井さん、あなたに、すべてお任せする。」こずえは、高井に全幅の信頼を寄せた。「記者会見の準備、そして、当日の進行、すべてあなたにお任せします。私は、ただ、自分の言葉で、真実を語るだけよ。」


「ありがとうございます、先生。必ず、うまくいきますから。」高井は、自信に満ちた笑顔を見せた。


そして、ついに、菜々美のドレスが完成した。繊細なレース、上質なシルク、そして、こずえの卓越した技術が融合した、息をのむほど美しいドレスだった。


ドレスが完成した翌日、都内のホテルで、記者会見が開かれた。会場には、多くの報道陣が詰めかけ、異様な熱気に包まれていた。


ステージに現れたこずえは、緊張した面持ちながらも、毅然とした態度を崩さなかった。隣には、秘書の高井まどかが寄り添い、こずえをサポートしていた。


高井は、まず、今回の記者会見の目的を説明した。「本日は、お忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます。本日は、シノハラ・コズエが、自身の過去、そして、娘である佐藤菜々美さんの才能について、皆様にお伝えしたく、この場を設けさせていただきました。」


そして、高井は、こずえにマイクを渡した。こずえは、深呼吸をしてから、ゆっくりと口を開いた。


「本日は、お忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます。私、シノハラ・コズエは、今回の報道で、皆様にご迷惑をおかけしたことを、深くお詫び申し上げます。」こずえは、深々と頭を下げた。


「今回の報道で、私の過去、そして、娘である菜々美の存在が明らかになりました。私は、若く、未熟だった頃、菜々美を育てることができず、手放してしまいました。そのことを、今でも、深く後悔しています。」


こずえは、涙をこらえながら、続けた。「しかし、私は、菜々美のことを、決して忘れたことはありません。常に、彼女の幸せを願っていました。そして、菜々美が、デザイナーとして才能を開花させたことを知り、心から嬉しく思っています。」


「今回の騒動で、菜々美は、深く傷つきました。彼女は、自分の過去、そして、私との関係について、深く悩んでいます。私は、母親として、菜々美を支え、彼女の才能を、世界に広めたい。そう思っています。」


そして、こずえは、高井に合図を送った。高井は、ステージ袖に合図を送り、ゆっくりとカーテンが開いた。


そこに現れたのは、完成したばかりの美しいドレスだった。


「このドレスは、菜々美がデザインしたものです。私は、彼女の才能を信じ、このドレスを完成させました。このドレスは、菜々美の才能の結晶であり、私たちの愛の証です。」こずえは、誇らしげに言った。


会場からは、驚きの声が上がった。報道陣は、一斉にカメラを向け、ドレスの写真を撮り始めた。


「私は、今回の記者会見を通じて、菜々美に、そして、世間の皆様に、伝えたいことがあります。私は、過去の過ちを償い、母親として、菜々美を支えていく。そして、菜々美の才能を、世界に広めていく。それが、私の使命だと信じています。」


こずえは、力強く宣言した。そして、深々と頭を下げ、記者会見を終えた。


記者会見は大成功に終わり、こずえの言葉は、多くの人々の心を打ち、感動を呼んだ。そして、菜々美の才能にも、再び注目が集まることになった。

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