第19話。意外な結末


7SEEDS貿易センタービルでの出来事:早朝、静寂を破る騒動と、意外な結末


第二幕。7SEEDS貿易センタービル。早朝8時。 まだ薄暗いオフィスに、窓から差し込む白い光が静かに注ぎ込む。受付カウンターには、佐藤ひとみと田中直美の二人の女性が座っている。ひとみは落ち着いた雰囲気の20代後半、直美は明るく、少し年下のようだ。


「おはよう、直美。」ひとみが穏やかな声で挨拶する。


「おはようございます、ひとみさん!…って、隈すごいですね!昨日のこと、やっぱり大変だったんですね?」直美は心配そうな表情でひとみの顔を覗き込む。


ひとみは苦笑い。「まあね…。昨日の夕方、青森から来た片岡菜々美さんって女の子が、アポなしで社長に会いたいって言ってきたの覚えてるでしょ?」


「ああ、訛りの強い子ね。片岡菜々美さん?社長に会いたがるなんて珍しいですよね。」直美は顎に手を当てて思い出す。


「そうなのよ。それが…昨日の報告書に書いた通り、彼女が夜遅くまで、ビルのロビーで待ってたんだって。」ひとみは疲れた顔で頷く。


「ええっ!?何時間も?警備の人も大変だったでしょうね。」直美は驚きを隠せない。


「本当に。警備員さんが何度も帰らせようとしたらしいんだけど、『どうしても社長に会いたいんです!』って言って聞かなくて…。」


「頑固な子ね…。結局、何が原因だったんですか?」直美は身を乗り出す。


「それがね…昨日、高井まどかから聞いたんだけど、社長秘書の高井まどかが、菜々美さんに会う約束を完全に忘れてたの!」ひとみは声を潜める。「まどか、菜々美さんが社長に直々に会いたいって言ってたことを、すっかり頭から消えていたみたいで…。本当に信じられない。」


「ええっ!?マジですか?!高井さんらしくないですね!いつも仕事できるのに!」直美は驚きで目を丸くする。


「そうなのよ!で、菜々美さんは夜10時過ぎまで、7時間以上も待たされてたらしいのよ!」ひとみは再び声を潜める。


「7時間!?それは酷すぎる!私だったら、1時間だって無理だわ!」直美は同情する。


「本当に。警備員さんが『もう遅いから帰りなさい』って何度も言っても、『社長に会うまでは帰れません!』って聞かなかったらしいわ。本当に芯の強い子ね。」ひとみは感心したように呟く。


「でも、なんでそんなに社長に会いたかったんだろう?何か重要な用事でもあったのかな?」直美は首を傾げる。


「それがね…詳しいことは私も知らないんだけど…どうやら、菜々美さん、すごい才能を持ってるらしくて…。高井さんが言うには、社長も興味を示しているみたい。」ひとみは言葉を濁す。


「すごい才能?一体どんな?昨日の報告書にはそこまで詳しく書いてなかったですよね?」直美は興味津々だ。


「うーん…それも、まだ詳しくは聞かされていないんだけど…糸とか針とか…そういうものを使う才能らしいわ。」


「糸と針…刺繍とかですかね?最近、社長が手芸に興味があるって話は聞かないし…」直美は考えている。


「問題はそこじゃないのよ!高井まどかのやつ、彼氏とのデートの約束をしていて、そのせいで菜々美さんのことをすっかり忘れてたんだって!信じられる?」ひとみは少し語気を強める。


「ええーっ!?それはないわ!人の人生がかかってるかもしれないのに、デート優先なんて…。」直美は眉をひそめる。


「でしょ!?でもね…その後の高井まどかの行動には、ちょっと見直したわ。」ひとみは意外な展開を告げる。


「え?どうしたの?まさか、開き直ったとか?」直美は疑いの目を向ける。


「それが、彼氏とのデートをキャンセルして、片岡菜々美さんへ謝罪に行ったのよ!しかも、自分の不注意で迷惑をかけたお詫びとして、菜々美さんを近くのホテルに泊まらせて、朝食までご馳走したんだって。」ひとみは少し興奮気味に話す。


「へぇ~!それは意外!高井さん、ちゃんと責任取ったんだ。やるじゃん!」直美は感心する。


「そうなの!私もびっくりしたわ。最初は『なんて無責任な!』って思ったけど、ちゃんと自分の非を認めて謝罪するなんて、偉いじゃない?って。」ひとみは高井まどかの行動を評価する。


「確かにね。でも、7時間も待たされた片岡さんは、どんな反応だったんだろう?普通なら、怒り心頭で文句の一つでも言いそうだけど。」直美は片岡菜々美の気持ちを想像する。


「それがね…片岡さんは、怒るどころか、『気にしないでください』って笑顔で許したらしいのよ。高井まどかは、逆にそれが申し訳なくて、余計に泣いちゃったんだって。」ひとみは驚くべき展開を語る。


「ええーっ!?そんなことってある?!片岡さん、聖人君子なの?ますます興味が湧いてきたわ。」直美は片岡菜々美という人物にますます興味を持つ。


「一番ウケたのがさ?(笑)まどかのやつ、彼氏にごめんって電話したら、『お前のそんな責任感の強さが魅力的なんだ』って言われたんだとか!(笑)ぷぷっ」ひとみは面白くて笑いが止まらない様子だ。


「えーっ!?嘘でしょ!?そんな都合のいい話、少女漫画でしかありえないじゃん!(笑)」直美も笑い出す。


「本当だって!『愛してるよ!』だって!(笑)もう、聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃったわ。」ひとみは照れ隠しをするように顔を覆う。


「やだぁ!何言ってるのー!(笑)」直美は大声で笑い、ひとみの肩を叩く。


「痛いわ!(笑)そんなに叩かなくても…。」ひとみは笑いながら肩を押さえる。


「だって、面白すぎるんだもん!(笑)でも、高井さん、意外と幸せ者なのかもね。」直美の笑い声がオフィスに響き渡る。


「そうかもね(笑)。まさか、あんなドジで泣き虫の高井まどかが、そんな素敵な彼氏と付き合ってるなんて…。」ひとみは感慨深げに言う。


「ほんと、人生って分からないものね~。で、結局、片岡さんはどうなったの?社長には会えたの?」直美は本題に戻す。


「あ、そうそう!それが一番重要だったわね!ええっと…確か…高井さんから聞いた話だと、社長は片岡さんの才能に興味を持って、**今日、改めて会うことになったらしいの!**時間は…」ひとみは手元のスケジュールを確認する。「10時からだわ。」


「10時!あと2時間しかない!急展開ですね!どんな才能なのか、ますます気になります!今日の午後は片岡さんの話題で持ちきりになりそう!」直美は興奮気味に言う。


「そうね。高井さんも、今朝は片岡さんのことで社長にこっぴどく叱られたらしいけど、逆に社長に片岡さんの才能を熱弁したみたいで…それが良かったのか悪かったのか…。」ひとみは少し心配そうな顔をする。


「なるほど…高井さんのフォローが功を奏したってことですかね。でも、社長に会うってことは、片岡さんの人生が変わるかもしれない。なんか、ワクワクしますね!」直美は目を輝かせる。


「そうね…私も、片岡さんの才能が認められて、良い方向に進んでくれるといいなと思ってるわ。」ひとみは優しい笑顔を見せる。


「私もそう思います!7SEEDS貿易センタービルから、新たな才能が羽ばたく瞬間を見届けたいですね!」直美は力強く頷く。


二人は片岡菜々美の才能が開花する瞬間を心待ちにしながら、それぞれの持ち場へと向かっていった。しかし、この時、二人はまだ知らなかった。片岡菜々美との出会いが、7SEEDS貿易センタービルの未来を大きく変えることになることを…。そして、菜々美が7時間も待ってまで会いたかった社長には、菜々美にとって忘れられない過去があったことを……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る