第14話
第十五章:逆転の糸
店を飛び出した菜々美は、あてもなく街を彷徨った。しかし、心の中は、不思議と晴れやかだった。長年燻っていた怒りを爆発させ、憑き物が落ちたような気分だったのだ。
「あ~あ、またやっちまった(笑)どうしよ(笑)」
公園のベンチに腰掛け、自嘲気味に呟きながらも、どこか笑っていた。
スマートフォンが震え、画面にはオーナーの名前が表示された。身を固くし、電話に出る。
「…もしもし」
「菜々美か。今どこにいる?」
オーナーの声は、意外にも落ち着いていた。怒鳴られることを覚悟していた菜々美は拍子抜けした。
「…店を飛び出して、公園にいます」
「そうか。少し話がある。戻ってこられるか?」
「え?でも…」
菜々美は、弁償のことや、クビになることを覚悟していたため、戸惑いを隠せない。
「いいから、早く戻ってこい」
オーナーは、それだけ言い残し、電話を切った。
戸惑いながらも、菜々美は店へと戻った。店に足を踏み入れると、先程までの騒然とした雰囲気は消え、いつも通りの賑わいが戻っていた。
オーナーに促され、奥のVIPルームへ。中には、先程シャンパンを浴びせた、あの先輩ホステス達を庇っていた常連客たちが集まっていた。
菜々美は、冷や汗が止まらない。これからどんな制裁を受けるのだろうか。
しかし、そこで待っていたのは、予想外の光景だった。
「菜々美ちゃん、よくやった!」
客の一人が、満面の笑みで菜々美に近づいてきた。
「え…?」
「いやあ、スカッとしたよ!あいつら、最近調子に乗ってたからな。よくぞ、やってくれた!」
他の客たちも、口々に菜々美を褒め称えた。
「正直、俺たちも、あいつらの態度に辟易してたんだ。でも、面と向かっては言えなかったからな」
「菜々美ちゃんのおかげで、溜飲が下がったよ!ありがとう!」
菜々美は、状況が飲み込めなかった。一体、何が起こっているのだろうか?
「…あの、これは、一体…?」
オーナーが、事の経緯を説明してくれた。
「実は、今回の騒ぎで、あいつらの評判はガタ落ちだ。逆に、菜々美は、みんなのヒーローになった。お客様からは、『菜々美ちゃんがいなければ、この店はつまらない』という声が上がっている」
そして、オーナーは、真剣な眼差しで菜々美を見つめた。
「菜々美、今回のことは、確かに暴力沙汰で、褒められたことではない。だが、客は、菜々美の気持ちを理解してくれている。だから、良かったら、また店に戻ってこないか?」
菜々美は、驚きと感動で、言葉を失った。
「…私、こんなことをしてしまったのに、それでも、戻ってきていいんですか?」
「ああ。菜々美は、この店にとって、なくてはならない存在だ。菜々美の笑顔は、お客様を幸せにする。だから、また、その笑顔を見せてほしい」
菜々美の目から、涙が溢れ出した。
「…ありがとうございます!必ず、また、皆様を笑顔にしてみせます!」
菜々美は、深々と頭を下げた。
そして、菜々美は、再び、この店で働くことになった。
今回の騒動は、菜々美にとって、大きな試練だった。しかし、その試練を乗り越えたことで、彼女は、より強く、美しくなった。
水商売の世界で、成功を収めながらも、デザイナーになるという夢を、決して諦めない。菜々美は、自分の信じる道を、突き進んでいく。
(終章へ続く)
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