第8話:岐路に立つ
小説「針と糸と夢」
第七章:岐路に立つ
優子との別れの後、菜々美は、派遣会社から解雇を告げられた。今回の騒動の責任を取らされた形だった。
「やっぱり、そうなるよね…」
菜々美は、どこか諦めにも似た感情で、その事実を受け止めた。
宛もなく街を彷徨う菜々美は、八戸に帰ろうかと考えていた。実家は漁師で、決して裕福ではないけれど、温かい家族が待っている。しかし、夢を諦めて、故郷に帰るのは、どうしても気が進まなかった。
「もう少しだけ、頑張ってみようかな…」
菜々美は、心の中で呟いた。
夜の繁華街、ネオンが煌めき、人々が行き交う中、菜々美は、所在なさげに歩いていた。すると、一人の男性が、菜々美に声をかけた。
「ねぇ、君。かわいいね。よかったら、うちの店で働いてみない?」
男性は、バークラブのホステスのスカウトだった。菜々美の容姿に目をつけ、声をかけたのだ。
「えー!あたし?(笑)」
菜々美は、驚きながらも、少しだけ嬉しかった。自分の容姿が、少しでも評価されたことが嬉しかったのだ。
「でもな(笑)漁師の娘なんですよ!」
菜々美は、明るく切り返した。水商売とは縁遠い、自分の生い立ちを、冗談交じりに話したのだ。
「水商売?(笑)向いてるかも(笑)」
菜々美は、自虐的に笑った。
スカウトの男性は、その明るさに興味を持ったようだ。
「ぷぷ、面白いな(笑)」
スカウトは、菜々美の明るさと、物怖じしない性格に、可能性を感じた。
「うちの店は、普通のクラブとは違うんだ。お客様も、紳士的な人が多いし、ノルマもない。それに、君みたいに、明るくて面白い子がいたら、きっと人気が出ると思うよ」
スカウトは、言葉巧みに菜々美を誘った。
菜々美は、少し迷った。水商売は、決して楽な仕事ではない。夜遅くまで働く必要があるし、お客様に気を遣う必要もある。しかし、他に仕事を探すあてもない今、この誘いは、魅力的に思えた。
「でも…私、お酒も強くないし、話も上手くないし…」
菜々美は、不安を口にした。
「大丈夫だよ。最初は、誰でもそうだ。慣れてくれば、自然とできるようになる。それに、うちの店には、優しい先輩がたくさんいるから、色々教えてくれるよ」
スカウトは、菜々美の不安を解消しようと、言葉を尽くした。
菜々美は、真剣に考えた。この誘いに乗るべきか、それとも、他の道を探すべきか。
「…少しだけ、考えさせてください」
菜々美は、スカウトにそう告げ、連絡先を交換した。
スカウトと別れた後、菜々美は、公園のベンチに腰掛け、夜空を見上げた。都会の夜空には、星はほとんど見えない。それでも、菜々美は、遠い故郷の星を思い浮かべた。
「私は、一体、どうすればいいんだろう…」
菜々美は、心の中で呟いた。
故郷に帰るべきか、それとも、東京で夢を追い続けるべきか。水商売の世界に足を踏み入れるべきか、それとも、他の仕事を探すべきか。
菜々美は、岐路に立っていた。どの道を選ぶかは、自分次第。しかし、菜々美は、まだ、その答えを見つけられずにいた。
(第八章へ続く)
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