第6話覚醒


小説「針と糸と夢」


第五章:覚醒


「…あなたを、絶対に許さない」


菜々美の言葉は、静かに、しかし重く、その場に響いた。次の瞬間、菜々美は、抑えきれない怒りに身を任せ、香織に掴みかかろうとした。


「この人でなし!私の大切なものを…!」


しかし、その時、田中優子が素早く二人の間に割って入った。


「いい加減にしろよ!」


優子の声は、普段の落ち着いた声とは違い、怒気を孕んでいた。その迫力に、香織も一瞬、動きを止めた。


「は?なんなの、あんた。関係ないじゃない!」


香織は、優子を睨みつけ、苛立ちを露わにした。


「関係ない?あんたが、片岡さんにしてきたことを、全部見てきたんだよ!パワハラ、いじめ、嫌がらせ!もう、我慢の限界だ!」


優子の言葉は、香織の悪行を暴露し、その場にいた全員を奮い立たせた。他の女性社員たちも、それぞれ怒りの表情で香織を睨みつけていた。


「うるさいわね!これは、私の仕事のやり方なの!あんたたちには、関係ないでしょ!」


香織は、開き直ったように叫んだ。


「仕事のやり方?あんたのやってることは、ただの個人的な感情の捌け口じゃないか!弱い者いじめだよ!」


優子は、一歩も引かなかった。その強い眼差しは、香織の心の奥底を見透かしているようだった。


「私は、ただ、会社のために…」


「嘘をつくな!あんたが会社のことなんて、少しでも考えてるわけないだろう!あんたが考えてるのは、自分の立場を守ることだけだ!」


優子の言葉は、痛烈だった。香織は、言葉を失い、顔を真っ赤にした。


菜々美は、優子の背後で、静かに立っていた。怒りはまだ収まらないものの、優子の力強い言葉に、少しずつ冷静さを取り戻していた。


「…もう、終わりにしましょう」


菜々美は、静かに口を開いた。


「高橋さん、私は、あなたを許さない。でも、あなたに復讐するつもりはありません。私は、自分の夢を追いかけるために、前に進みます」


菜々美の言葉は、優しく、しかし、力強かった。その言葉には、迷いは一切なかった。


「…夢?夢って、何よ。派遣社員の分際で、夢なんて語る資格ないでしょ」


香織は、最後の抵抗を試みた。しかし、その言葉には、以前のような力はなかった。


「資格?そんなもの、誰が決めるんですか?私は、自分の力で、自分の夢を掴み取ります。そして、必ず、あなたを見返してやります」


菜々美の言葉は、香織の心を打ち砕いた。香織は、完全に打ちのめされ、その場に立ち尽くしていた。


優子は、菜々美に優しく微笑みかけた。


「さあ、行こう。もう、こんなところにいる必要はない」


優子は、菜々美の手を取り、その場を後にした。他の女性社員たちも、二人に続いて、その場を後にした。


残された香織は、一人、取り残され、孤独に震えていた。


菜々美は、優子や他の女性社員たちに支えられながら、会社を後にした。外は、すっかり暗くなっていたが、菜々美の心は、不思議と晴れやかだった。


今まで、自分を縛り付けていた糸は、完全に断ち切られた。そして、菜々美は、新たな人生のスタートラインに立った。


(第六章へ続く)

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