アメリカンクラッカー

幼馴染のミツルくんには、マリちゃんという三つ年上の可愛いお姉さんがいた。

私はマリちゃんの事が好きだった。

登校班が一緒で、マリちゃんが班長だった。

朝、ミツルくんに「今日もマリちゃんは可愛いね」と耳元で言った。

しかし、ミツルくんはいつも苦い表情をして、「あんなののどこが良いの」と言うのだった。

マリちゃんは大人しく、長くて綺麗な黒髪をなびかせて、私に優しく声をかけてくれる。

「あら、顔が赤いけど、大丈夫?」

「うん。大丈夫。えっと、マリちゃんを見て赤くなってるだけだよ」

「ふふっ、そうなの? ありがとう」

マリちゃんは笑顔も一級に可愛い。

そんなある日、私はミツルくんの家に遊びに行くことになった。

なんでも、アメリカンクラッカーなる玩具を手に入れたらしい。

ミツルくんはジェスチャーを交えてどんな玩具なのかを話してくれるが、説明が下手で、どんな物なのか良く分からなかった。それならば、見に来てみなさいよ。と言うことだった。

私は家に帰ってからランドセルを置いて、ミツルくんとマリちゃんの家を訪ねた。

玄関でインターホンを押し、「ミツルくん、遊びに来たよ」と言うのだが、反応がない。

どうしたのかと、私は玄関の扉前でしばらく待った。

マリちゃんもいるはずだなあ。と、自然とにやけてしまう。

そう思うと俄然会いたくなって、もう一度インターホンを押そうとした。

その時、扉の先が騒がしくなり、何かを打ち鳴らすような甲高い音と共に、扉が開いた。

慌てた様子でミツルくんが飛び出してきた。

その背後に、ミツルくんを追いかけるようにしてマリちゃんの姿があった。

「マリちゃ…」

「うおーー! キンタマのお化けだぞー!」

マリちゃんはアメリカンクラッカーを股間にぶら下げ、反復横跳びをしながらミツルくんを追いかけ回していたのだった。

私の存在に気づいたマリちゃんは、咄嗟に動きを止めた。

アメリカンクラッカーがカチッっと鳴った。

「あ!それがアメリカンクラッカーか、バカ殿で見たことあるよ!」

「嫌だーーー!」

マリちゃんは顔を耳まで赤くして、アメリカンクラッカーを握り締めたまま階段を駆け上がって行った。

「ね、あんなお姉ちゃん、嫌でしょ?」

私は、ミツルくんの言葉が信じられなかった。

最高に可愛いお姉ちゃんじゃないか。そう思ったからだ。

私はマリちゃんの事がもっと好きになった。

「僕、将来マリちゃんと結婚するよ」

「え、うん。……べつにいいけど」

そう言った時の、ミツルくんの困惑した表情が今も忘れられない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る