第27話
「んじゃ、ついてきな!」
そう言って、ソーマは運動場の奥へと軽やかに歩き出す。セレンと俺も、それに続いた。
運動場は今まさに活気のど真ん中にあった。救星者たちが、思い思いの訓練に励んでいる。木刀を打ち合わせる音。拳がミットに食い込む衝撃音。掛け声、息遣い、汗の匂い。
そのすべてが、この場所に流れる戦いの空気を作り上げていた。
そんな訓練エリアの一区画に足を踏み入れた瞬間、俺は思わず息を呑む。
——すげぇ迫力。
そこでは、ひときわ目立つ男が立っていた。
黒髪短髪で、背丈は俺より頭半分くらいデカい。背中に担がれたハンマーは、下手すりゃ車を潰せそうな代物だ。
「おーい、ローガン! 連れてきたぜ、今日の相手!」
「相手……?」
男が振り返る。その眼差しは鋭く、まるで人間の芯を見抜いてくるようだった。思わず一歩、引きそうになる。
「……どっかで見た顔だな、ソーマ。その子たちは?」
「この間、酒場で意気投合したんだよ。んで、こいつがまたなかなか面白ぇ奴でさ。紹介するぜ」
ソーマは振り返って、俺とセレンを交互に見てから口を開く。
「こっちが羽瀬 直臣。ランクはⅤ級だが、実力はそれ以上だ。俺の勘がそう言ってる」
「勘で言うなよ」
「ははっ、んで、そっちの美人さんは──あえて紹介せんでもわかるか。鬼姫のセレンちゃんだ」
ローガンと呼ばれた男は軽く目を見開いたあと、ゆっくりと口角を上げて、俺たちに一礼した。
「初めまして、俺は牧 楼丸。パーティー《アイゼンリッター》のリーダーを務めている。見ての通りのハンマー使いだ」
「羽瀬直臣っす。こちらこそ、よろしくお願いします」
「四鬼星恋。よろしくお願いするわ」
「二人ともよろしく頼むよ。それにしても……鬼姫がこうして男と会話している姿は初めて見るな」
「あら、アタシだって、別に誰にでも噛みつくわけじゃないわよ?」
セレンが肩をすくめながら答える。
「確かに、それもそうだな」
その瞬間、背後から明るい声が響いた。
「ソーマ〜、また新しいナンパ相手見つけてきたの? ったく、しょうがないわね〜」
軽やかな足音とともに現れたのは、ウェーブのかかった肩までの金髪を揺らす女性だった。赤い瞳とくびれた腰、自由な空気を纏った彼女は、ただそこにいるだけで周囲の視線を惹きつけていた。
「って、鬼姫ちゃんじゃん1? ソーマ、あんた命知らずね?」
「今回はそういうんじゃねえっての。直臣、このうるさいのが時津 莉亜栖。リアスって呼んでくれりゃいいよ。星銃使いで、俺らの遠距離担当だ。あ、それと、これまで食ってきた男の数は三桁超えてるって話だからお前も食われないように気を付けろよ?」
「ちょっと、いらないこと言わないでくれる? 今のは気にしないでいいからね、ナオっち。これからよろしく~。あ、呼び方これでいい?」
「え? あ、うん……問題ないっす」
リアスが無邪気に微笑む。距離感は近いが、それもすんなりと受け入れられるのは彼女の雰囲気によるものだろうか。
が、隣から何とも言えない視線を感じる。……たぶん気のせいだ、たぶん。
「……お前、案外チョロそうだな?」
「黙れソーマ」
「ははっ」
そして、そのやり取りが落ち着いた頃──何の前触れもなく、もうひとりの気配がそこにいた。
「……刀枡。斥候役」
気配も足音もなかった。それどころか、そこに存在していたことすら感じなかった。
「うおっ……いつからそこに!?」
「ずっと。最初からいたよ」
無表情のまま、目の奥だけでじっとこっちを見ている。
「すげえだろ。こいつは徳倉 刀枡。うちの斥候担当だな。体感したと思うが、気配を消すのが得意な奴だ」
存在感ゼロってレベルじゃねぇ。……こんなタイプの救星者もいるんだな
「……よし、自己紹介はこれくらいにして……早速やってみっか」
ソーマがニヤリと笑って、手にした槍を軽く回す。
「どうする? まずは軽く一対一で様子見て、そのあとチーム戦って流れでどうだ?」
「いいぜ。体も仕上がってきたしな」
「おっけー。セレンちゃんは?」
「とりあえず見学ね」
「そっか。なら、さっそくやろうぜ、直臣!」
運動場の中央に位置取ると、自然と周囲の視線が集まってくる。訓練中の救星者たちもちらちらとこちらに目を向けていた。
「準備はいいか?」
「いつでもおっけー」
拳を握りしめ、姿勢を落とす。向かいに立つソーマは、軽く槍を構えたまま、さっきまでの軽口とは一変した、真剣な表情に変わっていた。
酒場でバカ話をしていた時とは違う、救星者の顔。
——そして、
「始めっ!!」
ローガンの声とともに、ソーマとの模擬戦が幕を開けた。
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