第25話

朝の支部は、いつものように騒がしかった。依頼を受けに来た救星者たちが行き交い、談笑しながら情報を交換し合う姿が見える。


そんな中、受付カウンターに向かえば、黒髪を綺麗にまとめたアイラさんが待っていた。微笑みを浮かべた彼女は、手元のタブレットを操作しながら言う。


「羽瀬君、おめでとうございます」

「……?」

「先日のバルザック討伐の件が正式に受理され、あなたのⅣ級昇格試験が決定しました」

「……おっ、ついにか」


俺は肩を軽く回しながら、小さく笑う。ようやく次のステップに進めるわけだ。


「いや〜、やっとナオもⅣ級か」


隣でセレンが腕を組みながらニヤリと笑う。どこか嬉しそうな表情に、俺もつられて笑ってしまう。


「お前な、まだ気が早いだろ?」

「あら? 受かる自信ないの?」


セレンが意地悪そうに目を細める。くそ、こういう時だけ煽ってきやがる。


「んなわけ」

「相変わらず仲がいいね」


アイラさんがクスクスと笑いながら、タブレットを俺に向ける。


「羽瀬君、実力は問題ないと判断されていたので、昇格自体は既定路線でしたが、やはり正式な試験は受けてもらうことになります」

「まぁ、そりゃそうっすよね。それで、試験内容は?」

「はい、試験内容は非戦闘員を護衛しながらのセリオン討伐任務です」

「護衛……?」

「ええ。羽瀬君の戦闘力はすでに認められていますので、『誰かを守りながら戦う能力』が評価のポイントになります」

「……まぁ、そりゃ納得できる内容だな」


単独で戦えるかどうかは、今までの実績で証明済みだ。じゃあ次に求められるのは、「他者を守る力」ってわけか。


「で、その護衛対象は誰なんだ?」

「私です」

「……は?」


思わず間抜けな声が出る。


「私が同行し、護衛対象になります」


アイラさんが落ち着いた口調で言う。一瞬、冗談かと思ったが、彼女の表情は真剣そのものだった。


「……いや、危なくねえか?」

「ふふっ、私もそう思いますよ? でも、今回の試験内容が決まる際、護衛対象について色々と議論がありました。最終的には、私が提案して立候補したんです」


アイラさんは微笑みながら、まっすぐ俺を見つめる。


「羽瀬君なら、私をちゃんと守ってくれるでしょ?」

「……ま、まぁな」


なんだろう、さっきまでの受付モードと違って、妙なプレッシャーがあるんだが。


「試験は三日後、試験内容は多摩地区南部に出現した甲殻型セリオン『フォルティラス』の討伐です」

「甲殻型か……」


クラウザークと同じく、硬い装甲を持つセリオンの一種。だが、フォルティラスはさらに強固な装甲を持ち、防御力に特化しているらしい。


「私は戦闘には参加しません。護衛対象として私を守りながらの戦闘になります。難易度は決して低くないと思いますよ?」

「ま、問題ねぇよ。それぐらい余裕でこなしてやる」

「ふふっ、それなら安心ですね」


アイラさんは柔らかく微笑む。


「まぁ、でも……セレンはどうするんだ?」

「アタシは同行できないわね」


俺の言葉に、セレンが腕を組んだまま肩をすくめる。


「そもそもナオの試験なんだし、アタシがついていったら意味ないでしょ?」

「まぁ、それはそうか……」


確かにセレンがいたら、何かあってもサポートしてくれるだろうし、試験の趣旨とはズレるかもしれねぇ。


「それに、ちょうどその日は異形種の共同調査任務があるからね」

「異形種……?」

「最近、各地で『これまで見たことのない形のセリオン』が多数報告されているわ。救星協会としても無視できない事態になってるみたいなの」

「へえ……」


異形のセリオンね……果たして強いのかどうか。機会があったらやりあってみてえな。


「で、異形種の調査はどこで?」

「三鷹地区ね」

「……この前の府中より先か。大丈夫か?」

「ま、アタシなら平気よ。ナオも試験、頑張りなさい」


そう言って、セレンは俺の肩を軽く叩く。


「お前、ちょっとは心配しろよ」

「ナオなら大丈夫でしょ? ちゃんとアイラのこと守ってよね?」

「言われなくてもやるっつーの」

「ならいいけど」


セレンはクスッと笑いながらこちらを見る。


「……セレンも気をつけろよ」

「ふふ、心配してくれるの?」

「当たり前だろ」


俺が軽く肩をすくめると、セレンは満足げに笑った。


「じゃあ、試験が終わったら祝勝会ね」

「おう、期待しとくわ」


俺がそう言うと、セレンは満足そうにニヤリと笑った。


昇格試験まで、あと3日——。

しっかり準備して、万全の状態で臨まねぇとな。



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予約投稿していたつもりができてませんでした。

明日からは、また20時投稿します。

泡雪

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