第20話

「さて、パーティーも組んだことだし、さっそく依頼を受けようぜ」


 俺が意気揚々と端末を確認すると、アイラさんが微笑みながら端末を操作し、いくつかの依頼をピックアップしてくれる。


「じゃあ、今受けられるⅣ級の依頼から、オススメを選んであげるね」


 受付の端末に一覧が映し出される。


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【現在受注可能なⅣ級依頼】

• 『府中地区内旧中央自動車道沿いで確認された甲殻型セリオン討伐』

• 『西多摩地区の森林地帯に現れた獣型セリオンの群れ討伐』

• 『八王子南部の地下施設に潜む昆虫型セリオン駆除』

• 『世田谷地区市街地での索敵任務(高確率で戦闘発生)』

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「ほう……」


 俺はじっくりと依頼内容を眺める。どれもⅤ級の時より難易度が高そうだ。


「ナオ、どれにする?」

「うーん……どれも面白そうだな」

「そうね……せっかくなら地上の方が動きやすいし、まずは戦いやすい環境で試してみるのはどう?」

「まあ、それも一理あるな……」


 俺は顎に手を当てながら考える。確かに、初のⅣ級依頼でいきなり不慣れな地下戦闘ってのも群れとの戦いってのも、やりづらいかもしれない。


ってことで、選ぶのは——


「じゃあ、高速道路跡の甲殻型討伐にしようぜ」

「了解、それならちょうどいいわね」

「こちらで手続きはしておくね」


 アイラさんが端末に登録を済ませ、俺たちのデバイスに依頼情報が転送される。


「よし、決まったな! じゃあ、さっそく——」

「待って」


 俺がさっさと出発しようとすると、セレンが俺の腕を引っ張る。


「は? 何だよ、早く行こうぜ」

「ナオ、ちょっと落ち着きなさい。武器屋に寄ってから行くわよ」

「武器屋?」

「そう。救星者向けの装備を売ってるお店よ」


 セレンが腕を組みながら説明する。


「ナオは素手で戦うから武器はいらないかもしれないけど、ナイフくらいは持っていた方がいいわ。それにプロテクターや便利なアイテムもあるから、一度見てみるといいと思う」

「まあ、確かに……」


 俺は己の拳を握る。俺にとって、こいつが最強の武器だってのは間違いねぇ。だが、戦闘中にナイフ一本あるだけで状況が変わることもあるかもしれないし、備えはあって困るもんじゃない。


「それに、あれだけ依頼を受けていればある程度はお金も溜まったでしょ?」


 セレンの言う通り、Ⅴ級に上がるまでに相当数の依頼をこなしたし、貯金もそれなりにある。となれば、ここらで装備を整えるってのもアリか。


「……わかった、ちょっと見に行ってみるか」

「よし、決まりね!」


 セレンが満足げに頷く。


「アイラ、武器屋ってどこがオススメ?」

「そうだね……【戦装堂バトルフォージ】なんてどうかな?」

「へえ、どんなお店?」

「八王子でも一番の品揃えを誇る装備店よ。ステラウェポンから防具、回復アイテムまで揃ってるわ」

「へえ、それは期待できそうね」

「じゃあ、さっそく向かうか?」

「ええ! 行きましょ」

「二人とも、気を付けてね」


 アイラさんに見送られ、俺たちはその《戦装堂》へ向かうことにした。


 八王子支部から徒歩で10分ほどの距離。街の中心から少し外れた、救星者向けの専門店が立ち並ぶエリアにその店はあった。


「ここが《戦装堂》か……」


 俺は立ち止まり、店の外観を見上げる。


 黒を基調とした頑丈そうな建物。入り口の上には大きく店名が刻まれた金属プレートが掲げられ、その下にはクロスした二本の剣がデザインされている。


「店名の通り、戦闘用の装備専門って感じね」

「よし、行くか!」


 重厚な扉を開くと、目に飛び込んできたのは壁一面に並ぶ大量の武器。剣、斧、槍、ハンマー、ナイフ……何でも揃ってやがる。


「おお……テンション上がるな!」


 俺は思わず感嘆の声を漏らした。


「でしょ? こういうお店ってワクワクするわよね」


 セレンは慣れた様子で店内を見渡す。


「お、おい、これ見ろよ。でっけぇ斧だな!」

「これはバトルアックスかしら? というかナオ、アンタそんなの振れるの?」

「いや、使ったことねえけど、やっぱこういうのはロマンあるだろ!」

「……まったく」


 セレンは呆れた顔をしながらも、つられて楽しそうに店内を見て回る。


「大剣とかもあるのか……」


 俺が棚に並ぶ武器を眺めていると、セレンが俺の腕を引っ張った。


「ナオ、こっち。小型の武器や装備があるわよ」


 セレンが案内した先には、シンプルな短剣やナイフが並べられていた。


「へぇ……こういうのもアリか」

「接近戦の隙を埋めるにはやっぱりナイフがちょうどいいわ。持っておけば、いざって時に使えるし」

「……そうだな」


 いくつもあるナイフの中から、俺は一本のナイフを手に取る。持ちやすく、バランスもいい。長さも邪魔にならない程度。手に馴染む感触に、ふと口元が緩む。これなら俺の戦闘スタイルにも馴染みそうだ。


「……これ。握りもいい感じだし、これにするわ」

「いい選択ね」


 さらに、救星者向けの携帯食料セットも購入し、店を出る。


「さて、準備も整ったことだし——」

「いよいよ依頼ね」


 セレンがニヤリと笑う。


「おう、戦鬼牙の初陣だ!」

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