第16話
「……こうして見ると、意外と種類がバラけてんのな」
俺はデバイスをスクロールしながら、ぼそりと呟いた。
今回受けた依頼の詳細を確認しつつ、ついでに他の依頼もざっと眺めてみる。単体で強力なセリオンの討伐依頼もあれば、小型の群れを掃討するもの、環境に適応した特殊個体の駆除など、内容は多岐に渡っていた。
「へぇ……ダンジョンとはまた違うってわけか」
俺はふと、セレンが言っていたことを思い出す。
ダンジョンならば階層ごとに強さが変わるから、自分の実力に合わせて戦う場所を選べる。でもここ、旧東京はそうじゃない。どこに何が現れるか分からない。
強い奴が多く集まれば、弱い奴は淘汰される。すると、討伐依頼の難易度も必然的に高くなるってわけか。それもあり、八王子支部で受注できる依頼はⅤ級以上しかないらしい。
Ⅴ級と言えば、初心者を超え、一人前と称されるランク。つまり、ここ八王子は――初心者が来ちゃダメな場所とも言えるかもしれない。
「ま、俺には関係ないけど」
重要なのは、倒せる実力があるかどうか。それだけだ。
さて、アイラさんが用意してくれた端末に映る討伐依頼を再確認する。
『旧東京立川エリアの廃工場にて、大型の"甲殻型セリオン"が発生』
『八王子駅跡周辺に、小型の"飛行型セリオン"が集結』
『市街地の地下排水施設で"獣型セリオン"の群れを確認』
「さて……どれから行くかね」
俺は端末に表示された依頼を吟味しながら、少しワクワクしていた。久々に"狩り"ができる――その事実が、自然と身体の奥に熱を灯す。
ちなみに、現在俺はひとりだ。セレンはⅣ級の依頼を受けたようで、目的地が別だった。
バイクにまたがり、颯爽と駆けていく姿はちょっと憧れた。
「ま、ここらのⅤ級依頼なら、俺一人でも問題ねぇだろ」
適度に動き回るにはちょうどいい。どれも制限時間なんかはない。報告さえすればいいだけだから、好きな順番でこなせばいい。
俺は端末のリストを眺めながら、一番上にある廃工場の依頼に目を向ける。
「——まずは、こいつからだな」
★
八王子から立川へと足を運び、俺は目的の廃工場へとたどり着いた。目の前に広がるのは、崩れかけた建物と、剥き出しになった鉄骨の残骸。昔は工業地帯だったらしいが、今ではすっかりセリオンたちの巣になっている。
「……で、どこにいるんだ?」
俺は視線を巡らせる。瓦礫の陰から、かすかに"何か"が動く気配がした。
——ズシッ……!
鈍い音が響く。そして、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
「——来たな」
現れたのは、巨大な甲殻型のセリオン。星肌に覆われた鋼のような外殻を持ち、まるで金属が擦れるような音を立てながら、異常に発達した二本の巨大なハサミを鳴らしている。
巨大なカニのようなフォルム――【クレイヴクラブ】
このセリオンは、硬さと怪力が最大の特徴のようだ。デカいハサミで挟まれようものなら、救星者といえどひとたまりもない。
「おーおー……なかなかデカいじゃねぇか」
俺は軽く拳を鳴らし、呼吸を整える。
——カチカチカチカチ……!
セリオンがハサミを鳴らし、俺を威嚇するように低く構えた。その瞬間、俺は一気に駆け出した。
懐へ迫る俺に対してセリオンの巨大なハサミが、ハンマーのように振り下ろされる。
——ズゥンッ!!!
地面が揺れ、瓦礫が粉々に砕けた。まともに食らえば、確実にミンチだ。
「おっと……遅ぇよ!」
俺は瞬時に横へ跳び、攻撃を回避。その勢いのまま、セリオンの懐へと滑り込む。
「喰らえッ!!」
全身の力を拳に込め、思い切り打ち込む。
——バギィィィンッ!!
拳が甲殻に直撃した。が、手ごたえはあったものの、硬い。
「……ほぉ、なかなかタフじゃねぇか」
セリオンが怯む気配はなく、再び前脚を振り上げる。
「チッ……こっちも加減してらんねぇな!」
俺は一歩退いた後、すぐに跳躍。
——ギュンッ!!
空中で身体を回転させ、思い切り回し蹴りを叩き込む。
——ドゴォォォンッ!!
一撃がクリーンヒットし、甲殻が少しひび割れる。セリオンが一瞬、よろめいた。
「よし、効いてるな!」
俺は間髪入れずに地面を蹴り、さらに加速。——そして、渾身の拳を突き出す。
「オラァァァァッッ!!!」
——ゴシャァァァァンッ!!!
拳が甲殻を砕き、セリオンの内部にめり込む。中から青黒い体液が飛び散る。
——ギャギャギャアアアア!!!
セリオンが断末魔を上げる。だが、すぐに俺は追撃の構えを取った。
「まだ終わらせねぇぞッ!!」
俺は一気に飛び上がり、セリオンの頭部めがけて拳を振り下ろす。
——ドガァァァンッ!!!
その一撃で、クレイヴクラブの星肌が砕け、青黒い体液が飛び散る。断末魔を上げる間もなく、その巨体は光となり霧散した。
「……ふぅ。ひとつ目クリアっと……次は?」
俺はデバイスを確認し、次の目的地を決める。
——向かう先は、八王子駅跡。飛行型セリオンが集まる場所だ。
「さぁ、次の狩りに行くか……!」
俺はそう呟きながら、次なる戦場へと向かうのだった。
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