第5話


 ドガンドガンと山が響く。この数分でどれだけの木々が薙ぎ倒されたのだろうか。


 全く、昨今地球の気温が爆上がりしてるんだから、環境破壊は控えて欲しいところだ。とは言ってもセリオンにそんな事情わかるわけねえだろうけど。


 ここまで来れば嫌でもわかる。敵からはⅢ級に相応しい膨大なエネルギーが感じられる。


 山を駆けること10分、かなり破壊音の震源に近づいてきていた。その証拠に、周囲に残る破壊された痕跡が目立つようになってきている。


 破壊の痕は主に2つ。


「……粉砕された木々と、大穴だらけの地面……」

 

 これは強力な物理攻撃の証だ。力任せに粉砕したであろう痕跡。


 直径数mの大木から大きな岩まで、全てが粉砕されている。地面にも深さ3mほどの大穴がいくつも空いており、その威力を物語っていた。


 そしてもうひとつは……


「これまた綺麗な切断痕だな」


 そう、美しい断面を見せる刃物による切断痕。こちらも直径数mの大木がきれいに両断されている。刃物を使うセリオンはいるが、ここまで綺麗な断面を作り出せる奴は地上には存在しない。ダンジョン100階層以降に出てくる深層級のセリオンにしかできない芸当だろう。つまり、これを引き起こしているのはセリオンに非ず。


「先客がいるってわけね」


 それも推定Ⅲ級セリオン相手に、これだけの時間やり合える人間が、だ。


 セリオンと救星者、どちらも同じく数字で階級が分けられているが、同じ階級における両者の強さはイコールではない。


 結論から言えば、Ⅳ級セリオンまでは同階級の救星者6人と同等、そしてⅢ級からⅠ級セリオンは同階級の救星者30人と同等の戦力とされている。


 これは、救星者、中でも救星騎士は集団で戦うことが想定されており。Ⅳ級セリオンまでは1個分隊6人が、Ⅲ級以降は1個小隊30人が任務にあたるのが一般的だからだ。


 つまり、この先にいるのは、実力で言えばⅢ級30人相当の救星者ということになる。まあ、相性とかもあるからあくまで目安ではあるが。


 と、いろいろあるが、俺の関心はただ一つ。


「昂ってきたぜ……ッ!」


 強者同士のリアルな戦闘、それを間近で見られる機会なんてものはなかなかなかったからな。ジジイとのはあくまで鍛錬だったし。鍛錬という名の地獄だったのは無視だ。


 今の俺に足りないのは強いセリオンとの実戦経験だからな。対人戦では、例えⅠ級相手でも遅れは取らない自信があるが、セリオン相手ではそうも言っていられない。


 骨格やサイズなんかまったく違うし、それに初見殺しの卑怯技を使ってくる奴なんかそこら中にいるって話だ。どれだけ身体が頑丈でも、回避不可の猛毒なんて食らえば一発でお陀仏なわけだし。


 だからこそ、リアルな戦闘を生で見られる機会ってのは貴重なわけだ。セリオンに対してどう立ち回るのか、その強者の動きから、経験を読み取ることができれば尚良し。


 とは言ったものの、これに関しては最近“ハイシンシャ”なる存在のおかげで改善されているらしいが……どうやらデバイスで見れるらしいが、ハイシンシャってなんだろうな?


「っと、近いな」


 そんなこんなで、いつの間にやら目標まであと100mほどに近づいていた。木々の隙間から、その姿を見ることができる距離だ。


「って、女……?」


まず目に入ったのは、珍しい女性の救星者。


 身長は俺と同じか少し上ってとこか、ショートボブのアッシュグレーの髪がよく似合っている長身の美人さんだ。露出の多いその恰好は森の中で適したものでは到底ないが、そんなことは一切気にも留めずに木々の間を駆けていく。

 その手に持つのは刃渡り3mを越してそうな大太刀。行く手を阻む木は全て切り倒して駆けていく。時折、振り向いてセリオンに攻撃も加えているところを見るにまだまだ余裕はありそうだが、見た感じ決定打にかけるといった印象。

 

よく見れば、額から、髪をかき分けて黒い角が伸びているのが見える。


 おそらく身体変化系のステラビリティだろう。あれだけの大太刀を軽々と振っているとこを見るに、身体能力の底上げもありそうだ。


 そんな高身長美女と相対するのは、さっきのセリオンが赤子かと思えるくらいの巨体を持つセリオンだった。


 見た目だけなら10mサイズのゴリラと言えばいいだろうか。だが、特徴的なのはその両の腕だ。まるで10tトラックをそのままつけました、とでも言うようなバカげた大きさの巨腕は、赤黒いオーラを纏いながら触れるもの全てを文字通り粉砕していく。

 腕が本体と言っても過言ではないそのセリオンは、腕と足を器用に駆使して素早く山中を駆けていく。


「やべえ、震えが止まんねえ……!」


 ああッ! 夢にまで見たⅢ級セリオン! しかもどうやら能力持ち! なんでこんなとこにいるのかは知らねえが、そんなもんどうでもいい。興奮で手が震えるし、ドクドクとアドレナリンが湧き出てくる。


 こんなもん、心躍らないわけがないよなァ??


 視線の先、戦況は膠着状態に。両者はひらけた場所で睨みあい状態になっていた。


 おいおい、そんなの俺に殴ってくれって言ってるようなもんだよなぁ……!?


 ってなったら、勿論やるこたぁひとつ。


「シャオラッ! 楽しいパーティーに俺も参加させてもらうぜ!」

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