第2話


『次は、甲府~、甲府に停まります』


 さてと、ようやく到着。って言っても30分くらいか? 車内は涼しいからよかったが、このあとこんな暑い服着てまた外を歩くと思うと憂鬱でしかない。

 だが、今日は念願の入学式。つまり、ようやく救星者登録ができるってわけだ。そう思えばこんな憂鬱気分はすぐに吹き飛ぶ。


 そんなこんなでホームに足を下ろせば、他の車両からも同じ恰好をした少年少女が何人か出てくる。だが、こっち方面から来る奴はやっぱ少ないみたいだ。旧東京に近い地域に人口が少ないのは仕方のないことと言ってしまえばそれまでだけど。


 誰だって危険と隣り合わせの場所に住みたくなんかないだろう。今や、旧東京周辺は世界でも随一のセリオン生息地帯。一山超えた先にある俺の家の周りだって、少し歩けば小型のセリオンと遭遇するくらいだ。


50年前とは違い、今はどこにだってセリオンがいる時代だからな。セリオンによる特殊災害のニュースを聞かない日は一日だってない。そんな世の中なら、より安全な新都市に逃げるのは当然だ。


 ほら、ちょうどやってきた反対側のホームを見れば、電車の中から同じ制服を着た少年少女たちが、まるで卵から溢れるカマキリの子供のようにわんさか溢れ出てくる。みんな長野とかの都市圏に住んでいる奴らだろう。温室育ちの甘ちゃん臭がぷんぷん漂ってくるぜ(偏見)。


「この人数に飲まれると面倒だな」


 ま、そんなことはさておき、とりあえず高校を目指すとしますか。


 改札を出て南に向かう。3Dホログラムの信玄公像があるロータリーに向かえば、オートドライブタクシーが順番待ちの少年少女を数人ずつ攫って行く。


 俺も適当な車両に乗り込めば、タクシーは勝手に発車する。デバイスから情報を読み取ったんだろうか? まあなんにせよ、目的地に向かってくれるなら問題はない。


 静寂が支配する車内から外を眺める。


 京都や長野といった大都市と比べれば遥かに見劣りするが、それでも区画整理された美しいこの街並みは俺の好みに合う。大都市はセリオン対策のステラドームで覆われているから窮屈そうで嫌いなんだ。


 それよりも、ここみたいに広々として開放的な方が過ごしやすいに決まっている。ここらだと、年に数回はセリオンの襲撃もあるみたいだし、その辺もスリルがあって魅力的だ。


 とまあ、そんなことを思うのはどうやら少数派のようで、危険と隣り合わせのこの場所に住む民間人は少ない。


 ここらに住んでいるのは、ほとんどが救星協会の職員たち。


 だからだろう、先ほどからちらちらと黒と銀で統一された暑そうな制服を着た人の姿を見かける。


 彼らこそ、救星者と呼ばれる人類の守護者。その中でも『救星騎士』と呼ばれる救星協会直属のエリート騎士様である。


 そして何を隠そう、このタクシーが向かう場所こそ、その救星騎士を育成する機関のひとつ、日本皇国第三救星高等学校だ。



 ★  ★  ★



 日本が日本皇国へと名称を変えて早40年。京都を首都とした23都府県で構成される現在の日本皇国には、救星者育成機関である救星高校は全部で4校あるらしい。さっきもらった資料に書いてあった。


 4校の中で3番目にできたから第三高校。そのまんまだな。


 そんなこんなで退屈な入学式も終わり、今は各クラスに移ってのホームルームの最中だ。


「……最後に、本校の制度についてです。みなさんにも深く関わる内容ですので、心して聞くようにしてくださいね」


 話しているのは黒髪ロングの美人さん。端的に言ってめちゃくちゃ好みのお姉さんだ。


 クールな見た目、落ち着いた雰囲気、無駄のない所作。どれをとっても最高。

 ただひとつ惜しいのは、胸が控えめなところだが……まぁ、それはそれでアリっちゃアリ。


「救星高校では、単位制の講義を行っています。各期の初めに講義を選択、各期における出席率及び試験結果によって成績が決まります。そして、3月時点で必要単位数を超えていれば晴れて進級できるというわけです」


 この美人さん、普段は最前線の街である八王子の救星協会支部で受付をやっているらしい。それがどうして高校教師の代わりなんてしているのかというと、なんでも、旧静岡方面で大規模な小型セリオン群が発見されたせいなのだとか。その討伐のために教員を含む多くの救星騎士が出動していて人手不足になり、急遽、呼び出されたそうだ。帰りは今日の夜にヘリで帰るとのこと。


 さすが万年人手不足の救星協会。年間の殉職率が10%超えるみたいだし、いろいろと大変なんだろう、知らんけど。


「この時に、優秀な成績を修めた人は特進クラスへと配属されます。これが救星騎士へと進むための唯一の道となります」


 彼女がいるなら八王子で活動するのもありかもしれない。救星者登録さえしてしまえば、こんな場所に来る必要もねえしな。男が8割以上を占めるむさ苦しい学び舎になんていたくないから、救星者登録したらすぐに出る予定だったし。


 それに、男なら美人な受付がいるところで働きたいと思うのは当然だよな? 救星協会の受付嬢は美人ぞろいとも聞くけど、噂でしか知らない美人より己の目で見た美人の方がいいに決まっている。


 美人と酒と己の拳さえありゃ男は生きていけるってジジイも言ってたし。


「皆さん、この学校に進んだのであれば、誰でも救星騎士を志しているはずです。救星騎士への道はとても狭いものですが、諦めなければ誰にでもチャンスはあります。心して、学業、鍛錬に励んでください」


予定だと旧神奈川あたりのちょっと弱めのセリオンが集まっている地域から攻めるつもりだったけど、まあ八王子でもなんとかなるだろう。所詮、平均危険度が2階級変わるだけさ。人生なんて気合いと根性で案外どうにかなるもんだ、いけるいける。


「最後に、救星者はこの星を守る大切な存在です。そして、今日、あなたたちはその一員となります。これから先、辛いことはたくさんあるでしょう。でも、皆さんは一人ではありません。友人、教師、そして私たち救星協会の職員だって皆さんの味方です。そのことを忘れないでくださいね」


 そうと決まれば話は早い。今日の夜には八王子を目指すとしますか。空路の手段は持ってねえから歩きになるが、一晩あれば山も越えられるだろう。


 って、おや……? いつの間にかホームルームが終わったみたいだ。みんな荷物を持って教室から移動しようとしている。やべやべ、考え事してて話なんにも聞いてなかったわ。


 さ、とりあえず遅れないように俺も向かわないとな。


 なんてったって、この後はお待ちかね、救星者登録のお時間だ。

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