第15話 戦争を止める1枚

「ゆかり!そこの白の絵の具取ってくれ!」

「ええっと…はい!」

 私はクロカにバケツにたっぷりと入った白い絵の具を手渡す。

「ありがと。シロハ!あいつらと連絡ついたか?」

 シロハは彼らへの手紙を書いていた。

「今、アカリへの伝書鳩を飛ばす準備をしているわ。ハイラの分はもう飛ばした」

「おっけー、返事がきたら教えてくれ」

 クロカは太い筆で、部屋の一面を埋める大きな紙に白い色を足す。

 部屋はやることがいっぱいでてんてこまいだ。

 ……なんでこんなにいそがしくなっちゃったのかというと―――


* * *


「絵を、描こう」

 クロカは大きく腕をのばす。

「…なに言ってるのよ!?こんな非常事態に!?あんたこそバカなんじゃ―――」

「まぁまぁ、こっちにも考えがあるんだ。なるべく平和的に解決するステキな作戦がな!わかったらとっとと手伝いな!」

 シロハはクロカの勢いに押されると、これ以上は何も言わなかった。

「い、いやいや。せめて具体的になにをするかとかぐらい―――」

「未定だ!」

 じゃあ、ダメじゃん!!

「なんとかなる!多分!」

 クロカは「ワッハッハッ」と快活に笑う。

「……シロハさん、大丈夫なんですか?あれ」

「わからないけど、私たちだって解決方法思いつかないんだし、なんにもできないよりかはあいつに従ってた方がいいんじゃない?」

 どっちにしろ、行き当たりばったりだけど……

 それは今に始まったことじゃないか!!

 なんだかふっきれてきたところに、クロカは指をぴしっと立てる。

「ということで、まずはここにある中で一番大きい紙を出してくれ」


* * *


 そんなこんなで今に至るわけだ。

 クロカの下に敷かれてる途方もない広さの紙は、私10人分はよゆうであるだろう。

「ぽっぽーぽっぽー」

 音が聞こえた方を向くと、外から手紙を持った鳩が鳴いていた。

 私たちが長い間気づいてなかったからか、鳩はそこはかとなくイライラしながら窓をつついている。

「あぁ、受け取ります。受け取ります」

 私は窓を開けて、鳩から手紙を受け取る。

「えっと、ハイラさんからですね。返事が早すぎません?」

 シロハは手紙を書く手を止めて、私の様子を見に来てくれた。

「そんなにすぐ返せるような内容でもなかったと思うんだけど……相当急ぎで伝えたいことがあったのかもしれないわね」

 私は手紙の封を取って中の紙を取り出す。

 そこには大急ぎで書いたのか、雑な字で大きく殴り書きされていた。

『開戦は明日』

 あぁ、もしかしなくてもこれは、とてつもなくやばいのでは?


* * *


 外はもう、日がかたむいていて、窓から夕陽が差し込んできた。

 私も手伝ってはいるが、この大きな絵が明日までに完成するとは思えない。

 そもそもこの絵で本当に戦争が止められるんだろうか…?

「ねぇ、ゆかり」

 シロハが後ろから声をかけてきた。

「なんでしょうか?」

 私はくるっと振り返ると、シロハがパッと私の手を取った。

「明日はここに来ないでちょうだい」

「「え?」」

 向こう側で絵を描いていたクロカと声が重なる。

 おそらく、私と同じようにかなり驚いたのだろう。

 私だって予想外すぎる一言にとまどっている。

「なに、おどろいてるのよ。当然でしょ。妖怪同士の戦争なんて危ないことに、人間をまきこむわけないじゃない。クロカも、まさかつれていくつもりだったの?」

「えっ、いやだって……うん」

 クロカは動揺を隠しきれていないような返事をする。

「はぁ……とにかく!もう遅いから帰りなさい!明日は絶対にきちゃダメよ」

「じゃ、じゃあ!明後日はきていいですか?」

 なんだか嫌な予感がして、焦りながら言葉を紡ぐ。

「戦争が一日そこらで終わると思ってるの?ダメに決まってるでしょ」

「それでは、次はいつくればいいんですか!?」

「そりゃ、戦争が終わって、落ち着いてから―――」

「それって、いつですか!?!?」

 私はハァ、ハァと息を切らしながら叫ぶ。

 もう、ここに二度と来れないんじゃないかって考えが頭の中でぐるぐる回る。

 いやだ、いやだ。まだここにいたい。まだここに―――

「……落ち着きなさい。あのね、そもそもここは人間がくるようなところじゃないの。わかったら、さっさと―――」

「ダメだ」

 シロハの言葉をさえぎるように、クロカが口をはさんできた。

「こいつがいなきゃ、この戦争は終わらない」

 クロカが口に手を当てて、鋭い目つきで私を見つめる。

「……なんで?」

「勘じゃダメ?」

 クロカはこてっと首をかたむける。

 シロハは今までで一番大きなため息をついた。

「あのねぇ、あんた。人間を戦争に連れて行くことの意味が―――いや、わかってていってるのよね」

 シロハが眉間にしわをよせて、額に手を当てる。

「……そうね、あんたもゆかりが来てから、変わったものね」

 シロハはうつむいていた顔をあげる。

「わかったわ。……ただし!」

 シロハは私とクロカに向けて指をさす。

「なんとしてでも、一日でこの戦争のかたをつけないさいよね」

 クロカはニヤリと笑う。

「あぁ、超絶ハッピーエンディングを見せてやるよ」

 クロカは「な?」と私へほほえみかける。

「はい!!」

 絶対に、この場所をうばわれてたまるもんか。

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