第4話 話が通じない方の妖怪

 ……来ちゃった。

 いやだって、昨日あんなことがあって、ハイ、サヨウナラ、なんてできるわけないし。

 妖怪なんて、もっと気になるに決まってるし。

 あんなに、楽しかったし。

 門限さえ守れば、親には怒られない……はず。

 昨日、シロハと約束した時間通りに岩壁まで行くと、なぜか、そこにシロハはいなかった。

「あ、あれ?時間をまちがえたかな…」

 まさか、夢だった、なんてことないよね…?

 周囲をキョロキョロと見わたしていると、なにもなかった場所に、とつぜんシロハがあらわれた。

「ん、来たわね」

「うわっ!!」

 びっくりして腰がぬけちゃった。

「大丈夫?」

 シロハはため息まじりに、手をかしてくれた。

「ありがとうございます……なんで隠れてたんですか?」

 シロハは顔をしかめる。

「なんで隠れないのよ。人間に見つかったら、なにがおきるかなんて、わからないのに」

 言われてみればその通りだ。

「す、すみません。クロカさんは、あっちから近づいてきたもので……」

 私の話を聞くや否や、シロハは「チィッ!」と聞こえるように舌打ちをした。

「あいつというやつは……何度言えばわかるのかしら」

「と、とりあえず、行きましょ?」

 シロハは不機嫌そうに岩壁をふれると、この前と同じように、真っ暗な穴ができた。

「あいつがコソコソ外に出る前に、さっさと向かうべきね」

 シロハは私の手をしっかりとにぎって、いっしょに真っ暗な穴に飛びこんだ。


* * *


「もう!クロカはなにを考えてるのかしら!」

 あやかしの山についてからは、ずっとこの調子だ。

 クロカのグチはなくならないようで、この話題だけで家までつきそう。

「……めんどくさいのが来たわね」

 急にシロハは立ち止まって、空を見上げる。

 なにかあるんだろう……か?

「グギギギギ、グガガガガ」

 空を見上げると、私の身長の10倍以上は大きいであろう、ガイコツがこちらを見つめていた。

「ゆかり、あんたは引っこんでなさい」

「な、ななな、なんですか、あれ!?」

 私は悲鳴をあげながら、シロハの背後に逃げこんだ。

 心臓がバクバクして、足のふるえが止まらない。

「がしゃどくろっていう妖怪。あいつ風に言うなら―――」

 がしゃどくろはガチガチと骨をならして、いかくしている。

「話が通じない方の妖怪よ」

 がしゃどくろの巨大なこぶしが、私たちをおそってきた!

「ひゃあっ!……あ?」

 思わず目をつむると、パチパチとした音と熱気、木がこげていくような匂いを感じる。

 おそるおそる目をあけると、シロハの妖術によって、私は白い炎に、守られるようにかこまれていた。

「すぐ終わるから、まってなさい」

 がしゃどくろは、炎に向けてこぶしをふるう。

「グギャァァァア!」

 炎はこぶしをつたって、がしゃどくろの全身をおおった。

 がしゃどくろは、あやかしの山全体がドシンッとゆれる様に、暴れまわる。

「骨は燃えにくいから、ちょっとめんどうなのよ」

 がしゃどくろは炎に燃やされながらも、こちらにとっしんしてきた!

「さっさと、燃えつきて」

 シロハはギュッと、こぶしをにぎりこむと、炎のいきおいは、周辺の木々を完全に燃やしきるまでに大きくなった。

「グガガギギャァァアア!!」

 耳がキーンっと、なるほどの大きな悲鳴とともに、がしゃどくろはくずれ落ちる。

「ふん、よかったわね。私がいるときで」

 シロハは指をパチンっとならし、燃え広がっていた炎を消してみせた。

「いや、ホントにその通りです。ありがとうございました……」

 妖怪のイメージとしては、ああいう方が想像通りと言われれば、想像通りなんだけど……。

「……クロカさんは、なにを考えて外にコソコソ出てるんですか?」

「それがわかったら、苦労しないわ」

 シロハはため息をついて、なにもなかったかのように家に向かう。

「さ、行きましょう。あいつがこのスキに変なことをしているかもしれないわ」

「それもそうですね……」


* * *


「やぁやぁ!遅かったな2人とも!」

 家につくと、クロカは寝ころがりながらお菓子をつまんでいた。

「がしゃどくろにおそわれたのよ。燃やしたけど」

「…あぁ!そうかそうか、それはちょうどよかった」

 クロカはぴょんっと立ちあがる。

「なんのことよ?」

 シロハはけげんな面持ちで首をかしげた。

 すると、クロカはニコニコしながら私のほうに近づいて、腕をつかむ。

「な、なんですかぁぁぁあああ!?!?」

 ずるずると私は腕をひっぱられて、ドアの前までつれていかれた。

「ちょっ!まちなさい!クロカ!」

 シロハはさけんで、クロカを引きとめる。

「ちょうど、欲しいものがあってね!ゆかりんといっしょに出かけてくるわ」

「さっき、がしゃどくろにおそわれたって言ったわよね!?キケンだからしばらく外に出るのは―――」

「最近、がしゃどくろがこの辺をウロチョロしてて、外に出にくかったんだよ。たおしてくれたんなら、しばらくは、外に出れるってことだろ?」

 この人がだいぶ無茶苦茶なことを言っているのは、人間の私でもわかる。

「ふざけたこと言ってないで、早く戻りなさい!」

「そんなに遠くに行かないし、いいだろ?」

 私はなすすべもなく、クロカに引きずられていく。

「ヤバそうだったら呼ぶから!よろしく~」

「ちょっ、まちなさ―――」

 クロカはドアを足でけとばして、しめた。

「あの、私は外に出たくないっていうか……」

 あんな目にあって、外に出るとか正気じゃない。

「ゆかりん、お花好きなんでしょ?いいところあるからつれてってあげる!」

 この人、話が通じない方の妖怪だろ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る