第2話 ダンジョンのなおし方②

『――はい、皆さんこんにちは、テラですー。今日はね、一層からお届けしてます。なんでかっていうと、あのー昨日のアレですね。「一層の上に三層がある」バグ。これね、あのー運営様から、対応したっていうご報告ありましたので、今日はそれをまず、確かめに行こうと思います。えっと確か、壁の落書き見てたんだよね。確か……あれっ。んっと……穴? あ、抜けれた。で、こっち……あれっ。穴……穴? 落とし穴? 何もなかったけど落とし穴……あ、抜けれた……落ちた。ここだ。…………これバグ?』




 照-TERA-が発見した249&250個めのバグを修正した翌日。早速、彼女が新たなバグを発見していて、俺は言葉を失う。


 新たな記録樹立の瞬間に立ち会うことができたのだ。


 配信が始まってからバグを見つけるまでの時間:一分二十二秒。


 それまでの最速記録を四分五十八秒更新しての新記録である。もっとも、その『それまでの最速記録』というのもまた彼女の記録だが。


 とにかく今から出勤だ。ダンジョンのバグは、当然、会社でもデバッグを行っているが、一般からの通報も受け付けている。ちなみに会社からの連絡はまだ入っていないが、照-TERA-はバグの通報を、必ず発見直後に、配信時間を割いて行うため、待つ必要はない。


今日も、リアタイできなかったことだけが心残りである。




 ダンジョン配信開始当初は、再び、例の短大時代の同級生とのコラボ配信を行い、それまでのファンに加えて、大きく視聴者数を伸ばすことができた。コラボ相手が、『ダンジョン配信者顔面ランキング』にて高順位をマークしていることもあり、顔だけ人気と揶揄されることもあったが、その年の暮れに、様々なデータ集計の結果発表がなされてから、その評価は変わっていった。


 バグ発見数。第一位:照-TERA-チャンネル(42件)。


 それは二位と40件差をつけたぶっちぎりの結果だった。恐ろしいことに、一週間に1.5件ほど見つけている計算になる。


 彼女には、ダンジョンのバグを見つける才能があったのだ。


 その後、年が明けて発表された最新番付にて、総合ランキング:84位、急上昇ランキング:7位、バグ報告数ランキング:1位、顔面ランキング:22位にランクイン。以降は、ふつうに配信の内容を楽しみにしているファンと、バグ発見を楽しみにしているファンとで、彼女の配信はどんどん盛り上がっていった。




「おつかれさまです」


 俺は会社に着く。俺の所属するデバッグ部署は、三部制の交替勤務で、第一班が四人、第二・三班が三人からなる。今日は第三班が当直・第一班が半休の日で、第一班の俺は退勤後にこうして駆り出されたということだ。対応に時間がかかる場合を想定して、デバッグ対応には二つの班が当たることになっている。


 第三班は既に作業を開始していたが、第一班はまだ班長しかいなかった。


洞本どうもと。三班のサポート入って」班長が俺に声をかけながらキーボードを叩いている。報告書の作成やら公式SNSの運用やらをやっているのだ。俺は「分かりました」と応じて、すぐ第三班の人たちの集まっている丸テーブルにお邪魔して、自分のパソコンを開く。


「たぶんデカいのじゃないと思うけど。あたしたち今1層見てるから、洞本、2層に回ってチェック頼む」


 第三班の班長に言われる。今回のバグは第1層の落とし穴――しかし、その落ちた先には何があるのか。第2層に突き抜けている場合は、そちらにバグの原因がある可能性も考えられる。


 ダンジョンのプログラムがある、というのは先述の通りだが、そのために専用のソフト、専用のプログラミング言語がある。そのソフトの中には実際のダンジョンと同じ構造の仮想ダンジョンがあって、探索型ゲームのようにその中を移動しながら、該当箇所をチェックし、修正した部分は、リアルタイムに実際のダンジョンに反映・修正される。俺は照-TERA-の通報にあった座標を変換して(ダンジョンは層ごとに地形が異なる)、2層に向かった。

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