第38話

荷物置いてくるからついてきてと言われて、駅前にある柊君のマンションへ向かう。


「私ね、あの時から花火が大好きになったんです」


「かすみちゃんも覚えてた? 俺、あの時から、かすみちゃんが好きだったんだと思う」


えっと、それは……どういう意味で? 

あの時からって、今も……?


「だから、屋上でかすみちゃんに声掛けて本当に良かったよ。一樹兄さんの身代わりのような人生のままだったらと思うと、ぞっとする」


そうだ、あの日、会長は何してた?


「あ、あの、奈緒ちゃんと、あの日、キ、キスしたんですか?」


「は? まさか。兄として抱き締めるのが精一杯だったよ。兄妹として育ったのに、キスしてだの、結婚してだの言いだすあいつが信じられなかったよ」


良かった。気持ちはなくても、あの子とキスしたなんて、想像しただけで嫌だもの。


「それに、かすみちゃんの家に引き取られなかったことも、本当に良かったと思う」


「えっ……?」


「両親が亡くなった時、親戚が少ない俺の引き取り先がいなかったら、かすみちゃんのお父さんとお母さんが引き取ろうと相談してたんだって。そうなったら、俺、かすみちゃんと兄妹として育ったんだよ。そんな関係は嫌だな」

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