第33話
「そうだね。兄さんじゃなくて、俺が死ねばよかったのに。そうすれば天国の両親の元に行けたのにって、ずっと思ってたよ」
そんな……そんな悲しいこと言わないでよ。
さすがに奈緒ちゃんも言い過ぎたと思ったのか、眉を寄せてうつむいている。
「でも、奈緒。あの日、本当は何があったのか、辛いかもしれないけど、真実を知っておいた方がいいと思う」
「真実?」
「奈緒はあの日、海で溺れた俺を助けようとして、兄さんが亡くなったって思ってるだろうけど、本当は違うんだ。本当は……沖へ流された奈緒を助けようとして、溺れてなくなったんだ」
「……うそ」
「後悔したよ。俺がすぐに大人を呼びに行ってれば、兄さんは助かったかもしれないって、何度思ったことか」
「うそだっ。そんな話、聞いてないもん!」
「そうだね、みんなで隠していたから。兄さんが亡くなったショックが大き過ぎたんだろうね。翌日、奈緒の中では海に行った記憶さえもなくなっていた。そんな奈緒に本当のことはとても言えなくて、俺を助けようとして兄さんが亡くなったって、つい言ってしまったんだ。父さんも母さんもそれに合わせてくれた」
「そんな……」
ガックリ肩を落として、見た目にも分かるくらいに気落ちしている奈緒ちゃん。
大丈夫?って、声を掛けようとしたら、先に会長が口を開いた。
「俺が家を出た理由も話しておかないといけないね。この夏、かすみちゃんのお父さんに会って、両親が遺してくれた資産のことを初めて知ったんだ」
「……資産?」
おずおずと奈緒ちゃんが顔を上げる。
「奈緒も知らなかったよね」
コクリと彼女が頷く。
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