◆11月

第18話

藤「お先」

直『はーい』



バスルームから課長が出てきた。バスローブを着て、タオルで髪をがしがし拭いている。

テレビをつけて、ツインのベッドの片方に寝転がっている俺。


課長がもう片方のベッドに腰掛けた。

メガネをかけて、俺の方を見たかと思ったら…



直『…課長?なんですか』

藤「いや。ひとりでシてないのかなと思って」

直『はぁっ!?』



真顔でなんてこと言うんだ、この人。



藤「だっておまえ、いつだったか、俺んちに初めて来た時…」

直『だぁぁあああ!!しませんよ、そんなこと!』

藤「…ふーん」



近づいてくる顔。メガネの奥の瞳。

濡れた髪から、思い出したように雫がぽつんと落ちる。



直『やめてください、変なこと言うの。だってここ、課長のベッドじゃないのに』

藤「…は?」

直『課長の布団も枕もない所で、俺がひとりでするわけないじゃないですか』

藤「俺の?」



髪を拭いていた課長の手が止まった。俺も言いたいことを全部言ったところで、はっと我に返る。



直『え!?あれ?俺、今、何を…』

藤「…直井」

直『うわ、ちょ、ちょっと待って課長!今のなし!冗談です嘘です、俺も風呂入ってきま…』

藤「遅ぇよ」



風呂上がりで珍しく熱い体をした課長に、抱きとめられた。


ここは関西地方の某シティホテル。夜の街はにぎやかだが、俺たちは夕食後早々にここへ落ち着いた。


出張で朝早くから慌ただしく動き回り、ようやく落ち着いたツインルーム。

一日の疲れを癒してくれるのは、ふかふかのベッドか、それとも―――



藤「おまえさぁ…煽ってんの?俺のこと」

直『そ…そういうつもりじゃ…』

藤「じゃ、誰の前でもそんなことしてるのか」

直『そんなことって何ですか!』



そう叫んだら、ベッドに思いっきり押しつけられた。



藤「スキありすぎ」

直『あ…ぁ…、課長…』

藤「上に乗れ」

直『!?』

藤「俺じゃなきゃダメなんだろ。だったら言うとおりにしろ」



のしかかっていた力が、ふっと抜けていく。

課長がベッドに仰向けになった。

冷徹な目。低く染みとおるような声。



藤「乗れよ。自分で動いて…最後までしてみせろ」

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