第16話
翌朝。
増「…おはよう」
直『お…おはようございます…』
俺は朝食の前に、ヒロ(&升さん)の前で正座させられた。
増「結局、何時に戻ってきたんだよ!?おにぎりは俺たちで取りに行ったからいいけど、すっごい心配したんだぞ!」
直『ごめんなさい…』
升「どこにいたの?」
怒るヒロとは対照的に、升さんは笑ってる。
もしかしたら課長から何か聞いてるのかもしれない。
直『えっと…その、星を見てて』
増「ほしぃ?」
直『コテージに行く途中で、課長に会ったんだ。それでつい、林の中に入っちゃって』
増「それで、日付が変わるまで戻ってこなかったって言うの?」
直『………』
それ以上の言い訳はできない。
とんでもない暴露をする覚悟は、さすがにちょっと…
升「ま、何事もなくて良かった」
増「いいんですか?チャマってば、昨日まで元気なかったのに、今日はすごく生き生きしてるし…」
升「ならそれでいいじゃん」
増「え?…あぁ、ま~確かに…」
まだぶつぶつ言ってるヒロの横で、升さんが「よし」と立ち上がった。
升「朝飯の時間だ。行こう」
直『…はい』
升「もう大丈夫なんだよな?」
直『はい』
その会話だけで、升さんは納得してくれた。
大丈夫ならいい、って。
直『ありがとうございました』
升「俺は何もしてないぞ」
直『課長からは、何も?』
升「……」
増「え?なになに、藤原課長がどうかしたの?」
直『どうもしないよ!ほらヒロ、早く行かないと!朝飯ってバイキングだろ?』
増「ああ、うん」
直『早く行かないとなくなるって!急ごう!』
増「そっか!」
そこへ、いかにも寝不足ですって顔をした課長が起きてきた。
藤「ふぁ~…」
升「おはよう」
藤「はよ…。あぁ、寝たりねぇ」
直『課長、おはようございます!』
藤「……」
何も言わずに、俺をじっと見つめてくる。
え?え?どうかしたかな。そう思った瞬間。
藤「首。虫刺されか?」
俺の耳元に接近して、そんなことを言ってきた。
ニヤリと笑う唇。からかうような声音。
直『こっ…これは!』
藤「ちゃんとガードしなきゃ駄目だぞ。変な虫は多いからな」
直『だ…だ…っ!!』
誰のせいだコラァーーー!!!!
内心で大爆発する俺をよそに、課長は「さーて朝飯だ」と行ってしまう。
直『ふざけんなよぉぉおおお~~!!!』
増「ええっ?何がどうしたの、チャマ!」
直『なんでもねぇよ!もう、マジで何なんだよあの人!なんで俺、あんな人のこと!』
升「はっはっはっは」
増「???」
研修はこれで終わり。あとはまた会社に戻って、いつもの仕事の日々だ。
でも、今までと違うのは―――
藤「直井」
直『あ…はい』
藤「おまえ、俺んちの合鍵、まだ持ってる?」
直『……。はい』
藤「よし」
俺の頭をぽんと叩く、この手があるということ。
【了】
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