第15話

直『あぁっ…課長…ゃあ…』

藤「はぁ…どうした?…っ、もうダメ?」

直『あ、ぁ…すごい…課長っ、あっ、あぁん』



メガネの奥から俺を見つめてくる課長の瞳は、やっぱりちょっとサドっ気がある。

でも、何を考えているか分からなかった、あの時の目とは違うんだ。



藤「後ろからの方が、好きだろ」

直『…課長のいじわる』

藤「そういうのも好きなくせに…」

直『あ…ぁ、かちょ…』



好き。

その気持ちがあるだけで、どうしてこんなに違うんだろう。

体だけじゃなくて、心が悦んでいる。

もっともっとと、いくら求めても応えてくれる手。俺のためだけに動く指。



直『あぁ、っ課長…』

藤「…挿れるのは…さすがに無理か」

直『あ、…えっと…』



少し戸惑う。俺の方からこんなのっていいのかな、と思ったけど。でも…



直『あの、これ』

藤「?」



上着のポケットから、手のひらサイズの瓶を取り出した。

中身は、さっき調理の時に使っていた油の残り。



藤「おまえ…」

直『か、勘違いしないでくださいね!バーベキューで使ってて、たまたま今持ってて…それだけなんですから!』

藤「ふぅ~ん」

直『なっ、何ニヤニヤしてんですか!本当ですから!あとでヒロに聞いてくれたって…』

藤「何をどう聞けってんだよ」



笑いながら、課長は瓶のふたを取った。

とろりとした食用油が、長い指に絡みつく。



藤「由文…体の力、抜いて」

直『は…、はい』



ぐっ、と入ってくる感覚。俺を傷つけないように、でも欲しがる気持ちも隠さずに。

もう片方の手は、こわばる俺の肩を撫で続けている。



直『あ…、ぁあ…あ、かちょ、課長っ…』

藤「…どう…?」

直『は、ぁん…課長…、おれ…あぁっ…や、イイ…』

藤「それじゃわかんないよ。教えて?今、どうなってるか。由文がどう感じてるか…全部俺に伝えてよ」

直『あぁん…』



どうしてそんな甘い声で、そんなことを。あなたの言葉だけで、俺はもう天国にいきそうなのに。

でも、課長のためなら恥ずかしさなんて―――



直『あぁ…課長…、課長の、ゆび、がっ…』

藤「…うん」

直『俺の中…あぁ!あ、すごぃ…動いてる…っ課長、あぁ…』

藤「ほら。もっと教えて?でないと、やめちゃうよ?」

直『あぁ、課長…もう片方の手も、俺の胸、さわってて…すごくいい…あぁ…』



草の上に課長のシャツを敷いて、その上に俺の顔をのせて。

暗がりの中、四つん這いで、高く腰を上げている。


なんてひどい恰好。誰にも見られたくない。

課長にしか見せたくない。

課長にだけは見てほしい。

俺がこんな風になるのはあなたの前だけだって、そう覚えていてほしいから。



直『あぁ課長っ…、もう、俺、や…指だけじゃ、いやっ…』

藤「…うん」

直『おねがい、課長…ほしい。課長のが、ほしいです…』

藤「ほら…やっぱり」

直『え?』

藤「さっき言ってた“最後のお願い”。最後じゃなかったね」

直『…あ』



かぁっと頬が赤くなる。

そんな。どうして今、そんなこと言うんだよ…


直『あぁ……っっ!!!』

藤「は…っ、力抜け…!!」



課長の全身が、俺の背中にのしかかってきた。

熱い塊が一気に貫いてくる。重くて、きつい。全身が地面に押しつけられる。

背後から俺を抱きしめたまま、課長が熱に浮かされたように動いた。



藤「はぁ、はぁっ…あ、ぁ…おまえ…最高っ…!」

直『や、あぁ、あん、か、課長…あぁあ…!』



さっきからずっと続けていた行為の、クライマックス。

体はもう悦びすぎて、動物のように啼いている。



直『あぁ課長…!好き…!課長、もう、だめ…っ!!』

藤「由文っ、は、ぁあっ、由文!このまま、いくぞ…!!」

直『あぁ、来て…!課長、全部、おれにっ…!!』

藤「……っっ!!!」



2人同時に、体が跳ねる。

何も考えられない。課長が全てを、俺にくれた。間違いなく、一緒に天国を見た。それだけが真実だ。



直『ねぇ…課長…』

藤「…ん…?」

直『俺…嬉しい。もう一度、こうして抱き合えて…』

藤「…俺もだ」



星明かりがまたたく。

はるか下の方で、町の光が少しずつ消えていく。


山頂の夜が更けていくなか、2人はいつまでも体を寄せあっていた。

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