第11話

翌朝。


集合時間の7時に集まった面々の中に課長がいるのを見て、俺はパニックに陥りかけた。

かろうじて逃げ出さずに済んだのは、顔色を変えた俺を見たヒロと升さんが、「どうした?」と心配してくれたからだ。



直『か、課長…どうしているんでしょうね』

升「え?あぁ、藤原か。たしか今日の講師役の代理だよ」

直『代理?』

升「うん。どうしても外せない仕事が入っちゃった人がいて、突発的に」

直『そう…ですか』

増「チャマ、大丈夫?真っ青だよ?」

直『ううん…平気。それよりヒロ』

増「?」

直『夜、バーベキューだよな。楽しもうな』

増「へっ?ああ、うん」

直『一緒に飲もうな。そうだ、大浴場も行こうぜ。改装されたんだって?』

増「そうらしいけど…ねぇチャマ」

直『あとさ、寝る時の割り振りは…』

増「チャマ!」



真剣な声で呼ばれて、さすがに口を閉じる。

いくら何でもおかしく見えたか。



増「ねぇ、ここんとこ変だよ。今月に入ったぐらい…いや、先月の終わり頃からかな?何だか、チャマがいつものチャマじゃない」

直『……』

増「余計なお世話なのは承知で聞く。何かあった?チャマ、今もすごく無理して頑張ってる感じがするもん」

直『……、ヒロ…』



張りつめていたものが崩れて、うなだれる。

升さんが俺の肩を軽く叩いた。



升「とりあえず、バスに乗ろう。移動だ」

増「はい」

升「増川。研修中、直井くんのことを頼むよ」

増「任せてください」



笑いあう2人に挟まれて、バスの席に座った。

課長はずっと離れた席にいて、どうしているかは分からなかった。






増「あぁ、やっと着いた~!」

升「ふあぁ…よく寝た」



山の上にある施設は、さすがに気温が低い。

日差しはそれなりにあるけれど、避暑地っぽくて爽やかだ。



直『じゃ…それぞれグループに分かれて、ってことで』

増「うん。あ、昼は一緒に食べようね」

直『あぁ。サンキュ』



笑顔で別れ、施設内に散っていく。

俺の行く先には、きっとあの人が待っている。


いつものスーツとちょっと違う、仕立てのいいものを着た人。

でもメガネだけはいつもと同じ、黒縁のやつをかけて。



直『失礼します』

藤「よう」



…やっぱり。


その部屋には、他に何人もの人がいた。

でも俺の目には、課長しか映らなかった。

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