第5話

直『…っ、ふ、ぅ……』

藤「…声、出さねぇの?」

直『あんたが、っ、出すなっつったんだろ…!』

藤「それじゃつまんないんだよなぁ」

直『ひっ…あ!ぁあっ…!!』

藤「無理しちゃって」



必死で声を殺したつもりでも、体は勝手に反応する。

動くたびに窓にぶつかって、路上を歩く人たちが揺れた。



直『あっ…、く、そ、そこは、や、嫌ぁ…』

藤「いやなら助けを呼べば?」

直『…うぁ…』

藤「窓は開けられる。叫べば誰か気づく。俺に何をされたか、言えばいい」

直『そ…んな…』



課長の言葉が、手が、唇が、足先ですら、俺を追い込んでくる。



藤「言えよ。ほら、やってみろ」

直『ぁ…や、はぁん、課長、かちょ…』

藤「直井くんは、藤原課長にイタズラされました…って。体じゅうに跡をつけられて、こんなに汗をかいて、それでも悦んでますって」

直『ち、違う…』

藤「違わねぇだろ。今日は縛られてもいないのに、抵抗しないじゃないか。こんなに先走って、もうイく寸前…だろ?」

直『あ、ぁ…や、そこ…』

藤「ここ?こんなのが好きか?この変態が」

直『あぁ…もっとぉ…』

藤「…直井くんは、たった2回で藤原課長におねだりするようになりました。なんてふしだらな体でしょう…」

直『あぁっ!!』



前を触っていた指が、突然うしろに回った。

やめて。そんなとこ入らないよ。それに汚い。課長の手を、俺のそんなところに…



直『いやぁっ…あ、ぁ!はっ、』

藤「指だけなら…受け入れるんだ?俺の指、べつに細くもないのに…」

直『あっ、あっん……動かさ、ないでぇ…』

藤「あれ?もしかして感じちゃう?」

直『ふぁ…か、課長…も、やだぁ…苦しい…』

藤「…そろそろ、限界か…」



助けて。イキたい。課長にイかせてもらえるなら何でもする。

でも口に出せず、涙のたまった目で課長を見あげた。



藤「…っ、てめぇ!」

直『え?…ああ!あっ、や、ひぃ…っ!!』



いきなり肩を抱かれ、窓から離された。

何も乗っていない大きな机に押し倒されたが、怖さはなかった。

体勢なんかより、課長のそれと俺のそれがこすり合わされていることの方が、よっぽど怖い。

だって、きっとこのまま俺は、俺は…



直『あぁ、課長、課長!だめ、もう、出る…!ヘンになる…ぅっ』

藤「……っ!!」



体が跳ねるように限界を迎え、目の前が白く染まった。

荒い息と静かなエアコンの音が、思い出したように聴覚を刺激してくる。



直『課長…。課長も、気持ちよかった…?』

藤「……」



横たわったまま、体をつたって落ちていく白さを見つめる。

どちらのものか分からないほど、濡れた机―――



藤「おまえ、今日はもう帰れ」

直『…え?』

藤「そんなんじゃ仕事にならない。帰れ」

直『で、でも』

藤「いいな」



冷たい目で吐き捨てるようにそう言い、課長は出て行った。

どうして…?

そんなに俺は嫌われているのか。

体だけは言いなりになるから、面白いのか。



直『なんで…こんなことになっちゃったんだろ?』



呟いてみても、答えはない。

憧れの人にこんな風にされて、喜ぶべきなのか。

いや、体は悦んでるって言われたっけ…


自虐的に笑い、机を降りる。

ここを片付けなきゃ。

当たり前のようにそう考える自分が、情けなかった。

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