第4話

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升「こんちはー」

直『あ、どうも』

升「課長さん、いる?」

藤「いるよ」

升「おっ、びっくりした」



なんか2人で笑ってる。

楽しそうじゃん、と思いながら、俺はぼんやりとパソコンのモニターに視線を戻した。

この人は升さん。

課長と同い年で、隣のフロアに所属している。



藤「ってことはさぁ…」

升「いや、そうじゃなくて…」



部屋の隅で話し込んでる。もうじき昼だし、外に行けばいいのに。

…こんな俺の視界に入る所に、いないでほしい。



藤「ちょっと出てくる」

直『はい』



モニターから目を離さず、声だけ返した。

課長が出て行っただけで、肩に入っていた力がふっと抜けていく。

あぁ、ひとりになれた。

こんな感覚は間違っているのに。他の人たちは普通に仕事をしているのに。





不意に昨日の映像が浮かんでくる。

資料室の片づけなんて、出来るわけがなかった。

わけもわからないまま襲われ、何故かろくな抵抗もできずに体を許してしまった俺。


考えちゃいけない。恥ずかしくてたまらない。

そう思えば思うほど、課長の指や舌や胸を思い出してしまう。


…体が熱くなる。どうしようもない。

どんなに乱暴でも、ひどい扱いを受けても、どこかでそれを“俺だけ特別”って考える自分がいた。


だって俺は、課長に憧れていたから。

仕事の面でもそうだし、まだ若いのにすごく頼りになる人だって、そう思ってたから。…思ってたのに。



直『………』



集中できないもいいところだったので、黙って立ち上がった。

トイレに行こう。

どうせ昼だ、ついでに食事にも行ってしまおう。



直『……っ!!』

藤「よぅ」



廊下の角を曲がったところで、一番会いたくない人とぶつかった。

なんで、どうしてここに。気配なんかまったくしなかったのに。



直『…失礼します』

藤「待てよ」

直『升さんと一緒じゃなかったんですか!』

藤「あいつは別のやつと昼行くんだって」

直『俺もメシ行ってきます』

藤「待てって」



腕をとられた。それだけでもう、体が昨日のことを思い出す。



藤「…ふるえてる」

直『そりゃそうでしょ。考えてみろよ!昨日あんたが、俺に何したか!』

藤「……。ふぅーん」



にやりと、課長が笑った。体のどこかが甘く疼いた。

だめだ。絶対に勘づかれちゃいけない。



藤「来い」

直『……っ』



ネクタイをつかまれ、一番近くにあった会議室に連れ込まれた。

今日は使う予定のない部屋。

大きな窓の外にはオフィス街が広がり、明るい光が差し込んでいる。



藤「上司に向かってあんたとか、考えてみろとか。そんな口きいてイイと思ってんの?」

直『……』

藤「今日は朝から、ろくに口もきかないで」

直『…仕事はちゃんとしてるでしょう』

藤「へ~え?いつもうるさいぐらい話しかけてくるのに、今日は全然だよなぁ」

直『……』

藤「コーヒーいれました、とか。今日の資料もう一度確認させてください、とか。ああいうのが全然…」

直『誰のせいだよ!!』



思わず叫んだら、課長が俺の口を強くふさいだ。



藤「こんな所で大声出すな。昨日も言ったろ」

直『~~っ、……』

藤「本当に勝手な部下だな。…体に教えなきゃ、わかんないか?」



あぁ。また昨日と同じ。でも違う所もある。

内鍵がかけられたのは同じでも、今日はエアコンが付いている。

窓から下を見れば人だらけだ。そう思った瞬間。



直『…やっ!!』

藤「窓、好きなんだね」



背中を押され、ガラスに胸と手をつく格好になった。

メガネをかけたままの課長が覆いかぶさってくる。

…まさか。



直『あぁ…っ、や、やめて、課長っ…』

藤「そんなに外から見られたいの?…もうこんなにしちゃって…」

直『ち、ちがっ…やめて、あぁ、か、っかちょ、ぉ……ゃあ、はぁ…』

藤「ほんとに感じやすい…男は何人目だよ?この淫乱」



あぁ。課長、お願い。もう許して。

俺はあなたに、抵抗なんかできない。

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