第25話

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升「………」

増「というわけ。おわかり?」

升「…わかりたくもないけど、わかった…」

増「そうだろうねぇ」



苦笑するヒロ兄の前で、秀夫くんが脱力しています。

細かいディティールはだいぶ省略されていましたが、それでも中学生にはハードルの高い話だったかもしれません。



増「俺がこの家に来たのは、その次の年なんだ」

升「え」

増「8歳になる前だった。兄さんは大学に入る頃だったのかな。チャマはもうこの家のことを全部取り仕切ってて、高校を卒業した後もずっとそれを続けて」

升「…そうだったの」

増「引き取られてから、父さんにももちろん会ったんだけどさ。やっぱり兄さんとかチャマの方が遊んでくれたし、面倒も見てくれたし。結局、あんまり話さないままだったなぁ」



今となっては…という感じなのでしょうが、ヒロ兄はどこか名残惜しそうでした。

秀夫くんもそこは同感です。

やくざの大親分だったという父親。どう思っていようと、3人のルーツなのは間違いないのですから。



升「ねぇ、ヒロ」

増「ん?」

升「俺、父さんの墓参りって行ったことないよ」

増「え?嘘、そうだっけ」

升「みんなが挨拶に行く大きなお寺は連れてってもらったけど、身内だけのやつもあるんでしょ?」

増「あー、あるある。そっか、あっちは行ってないのかぁ」

升「うん」


増「そしたら、時間見つけて行こう。俺も一緒に行くからさ」

升「…うん。俺、父さんに一度も会ったことないけどさ、お礼言いたいことがあるんだ」

増「へー、何?」

升「ヒロと俺を兄弟にしてくれてありがとうございますって」

増「なっ…、な、何を、おまえ!」

升「だって兄弟じゃなきゃ会えなかったじゃん」

増「それは…まぁ…」

升「あと、チャマさんを兄さんの仲を認めてくれてありがとうございますって」

増「……まーね。そこは、うん」



テーブルの上には、どどんと置かれたチョコレートケーキ。その周りには、小袋に分けられたトリュフチョコがいっぱいあります。

さらにコンロのほうを見れば、今日の夕飯用とおぼしき鍋がいくつも置かれています。



升「これって、毎年こんな感じなの?」

増「うん。俺や兄さんはもちろんだけど、今日この家に来る人も食べ放題だよ」

升「はぁ~。部下の人たちも?」

増「当然でしょ。むしろそれ狙いでお供が多かったりするもん」


藤「ただいま」

升「あ、お帰りなさい」

直『秀ちゃん、ヒロ、ケーキ切ろう!みんな待ってるから!』

増「今年もたくさん来てるの?」

藤「もうすげぇよ、組総出の勢いだよ。こいつが際限なく作るから」



そう言いながらも、基央さんはどこかくすぐったそうな顔で笑いました。

この人にこんな顔をさせられるのは、間違いなくチャマさんだけです。



升「墓参りの時、お弁当作ってもらえないかなぁ」

増「あ、いいね。あとで頼んでみようか」

直『みなさーん、お待たせしました!ケーキかトリュフ、どちらかどうぞー』


――姐さん!いつもお世話になっておりやす!

――おや?こちらのシガレットチョコは?


藤「あ、それに手ぇつけた奴は絶縁だからな?(にっこり)」


――ひっ…、も、申し訳ありやせん!!


升(何なんだ、この世界…)





【完】

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◆僕のきょうだい【完結】 雪恵 @yukie01

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