第4話

直『いらっしゃいませー。こっちにカップに入ったのもありますからねー』

升「い、いらっしゃいませ」

藤「あぁ、スプーンもありますよ。どうぞ」



にこにこと冷凍フルーツを配る2人と、慣れない手伝いでいっぱいいっぱいの秀夫くん。

ヒロ兄は家の中で昼食用のカレー作りを任されています。

いよいよ夏祭りが始まりました。



升「兄さん…そんな愛想良かったんだね」

藤「え?何だ、意外?」

升「うん。なんかその、あんまり接客とか上手くないのかと思ってた」

直『甘いなぁ秀ちゃん。最強の女殺しだぜ、この人は』

升「やっぱり」

直『あ、そこは分かってたんだ』

升「だってなんかモテそうじゃん。ちょっと冷たい人って、うちのクラスの女子にも人気だし」

直『ははん』



基央兄さんが反論しようと口を開く前に、別のお客さんから声がかかりました。



――すいませーん。そのイチゴの、ください。

――パイナップルの串を2本。


藤「はい、お待ちくださいね」

直『あ、お嬢ちゃんも食べるー?』



…まさかこの2人がここんちのトップ(と姐御)だとは、誰も思ってないだろうなぁ。

ぼんやりとそんなことを考えていたら、基央兄さんのポケットで携帯電話が鳴りました。



藤「もしもし。…あぁ、わかった。じゃあ切り上げて行くよ」

直『どしたの?』

藤「ヒロから。カレー出来たって、大威張りで電話してきたぞ」

直『あっはっは』



それを聞いて、急にお腹が減った気がします。

正午の太陽を見上げながら、美味しいカレーを想像して自然に笑みがこぼれました。








結果的にいうと、カレーはものすごく微妙な味でした。

なんというか、固いのです。粘性が高い…つまり水が足りないんでしょうけど。



藤「……」

直『……』

升「……げほっ」

増「どうしたの?お水飲む?」

升「…の、飲む」



体が弱くても優しくて頭もいい人だと思っていましたが、料理の腕は要修行のようですね。

あとの2人は無言のまますごい勢いで食べ終え、また外に出ていきました。



升「…ヒロ兄、後片付けは俺がやるから」

増「え、そう?ありがとう」

升「うん。でさ、もしよければ、あとでちょっと表に出て見ない?」

増「…いいのかな」

升「楽しいよ。いろんな人がきて、フルーツも美味しいし」

増「あー、つまみ食いばっかしてるんだー」

升「ちょっとしかしてないって!」



実際は、形が悪くて他人様に提供できないと(チャマさんに)判断された果物のかけらたちが、(チャマさんの手で)基央さんや秀夫くんの口に放り込まれているだけなのですが。



増「でもいいね。俺も実は、外に行ってみたかったんだ」

升「…!!そうでしょ!行こう、ね!」

増「うん」



その日の午後は、4人そろって表に立つことになりました。


夕涼みがてら出てきたヒロ兄は淡い色の浴衣姿で、うちわで小さな子たちをあおいであげたりして、いつもよりはしゃいでいるように見えました。

浴衣の着付けを手伝った秀夫くんも、内心ドキドキする自分を“おかしいな”と思いつつ、夏を楽しみました。

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