第2話

くすくす笑いながらケーキを口に運ぶ姿を見て、秀夫くんはやっと心の底から笑うことができました。


チャマさんと、弘明兄さん。それとあともう1人、今は仕事なのかな、出かけているというお兄さん。

ここが自分の帰る場所になるんだ。


異様に広くて立派な家だけど、何の仕事をしてるのかなぁ。そのうち聞かせてもらいたいな。

そう思って飲んだお茶は、とても美味しく感じました。



―――ガラガラッ


お帰りなさいませ。

お疲れさんです!



直『あ、帰ってきたみたい』

増「うそ、今日は早いね」

直『もしかしたら秀ちゃんの顔見に来たのかもよ』

増「あー。かもね」

升「えっ…お兄さん?」

直『そう。きみの保護者になる人だ』



そう言われて、背筋に緊張が走ります。ちゃんと挨拶しないと。よろしくお願いしますって、言わないと…



藤「よう」

直『おかえり、藤くん』

増「お帰りなさい、兄さん」

升「……」



声が出ません。風のように現れたその人は、弘明兄さんとはまた別のインパクトがありました。

年はまだ20代でしょう。細身のダークスーツに、切れ長の目。

若いのに、ものすごい威厳と威圧感があります。



藤「…升秀夫くん?」

升「あ、はい!えぇと、その、よろしく…」

藤「うん。俺は藤原基央。そっちの2人とはもう話はした?」

直『大丈夫だよ。仲良くなってる』

藤「ならいい。俺、これからまた戻らなきゃいけないから」

直『大変だね。お茶ぐらい飲まない?』



そこに、お兄さんの部下…といって良いのでしょうか、明らかに年上のガタイのいい男性が声をかけてきました。



――申し訳ありやせんが、姐さん。すぐ出ないといけないもんで。


直『あ、ごめんなさい。じゃあこれ、パウンドケーキ。皆さんの分も』


――ありがとうございやす。あとで頂きます。姐さんの菓子は旨いんでね。


藤「悪いな」

直『全然。じゃ、気をつけてね』

藤「ああ。行ってくる」

増「いってらっしゃーい」



あぜんとする秀夫くんの前で、お兄さんたちはまた出かけていきました。

あとに残った弘明兄さんとチャマさんは、何事もなかったかのようにお茶をすすっています。



升「あの…今のって…」

増「ん?兄さんだよ、基央兄さん」

升「あねさん、って…」

増「そこはツッコまないの」

直『お母さんは違っても、君ら3人は間違いなくこの家の息子だからねぇ』

升「………」





広域指定暴力団・藤原会総本家。

老齢だったトップが亡くなり、まだ若い息子が跡目を継いだのは、一年ほど前のこと。


正妻をもたなかった先代は、それぞれ母親の違う3人の息子を遺していきました。

藤原基央、27歳。

増川弘明、16歳。

升秀夫、12歳。



これは、一番下の秀夫くんが引き取られた年に起きた、ちょっとした騒動のお話です。

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