第11話

そしてやってきた10月9日。



藤「…ようやく、だな」

直『よく我慢できたね。お疲れさまでした』

藤「どっちかっていうと、大変長らくお待たせ致しました、だろ」

直『ええ~?俺を想って、俺のいないところで1人でイケないことしてなかった?』

藤「しっ…いや、え、あの、それは!おまえだってしただろ!?」

直『うん。だからそこはプラマイゼロ』



その言葉に、藤くんがホッと息をつく。

これで駄目だとか言われたら間違いなく暴れてただろうな、この人。

にやにや笑う俺の肩に、少し緊張気味の手がかけられた。


すっと笑みが引く。


ふるえるようなキス。

性急に求める指と吐息と、俺を呼ぶ声。



藤「…由文」

直『ふじ、くん』



おかしくなるまで抱きつぶすと宣言していた通り、それは執拗で濃厚で。

『いや』の声も「嫌がってもやめるとは言ってない」の一言で流される。



直『あ、ぅん…!』

藤「…また、挿れてすぐイッちゃう…?」

直『イかねぇよ。意地でもイかねぇ』



虚勢を張る俺を見つめる目が優しい。

優しくて甘くてどうしようもない。



藤「ちゃま……そしたらさ、俺がもう、限界だから。イこう、一緒に。2人で、俺たちだけで」

直『……』



涙が出てきた。

そっか。おまえもわかってるんだ。俺たちは、もう…



藤「は、ぁあ…っ!!」

直『あぁ…!あ、ぁあ…!!』



注ぎ込まれる感覚がどうしようもなく熱かった。

脈打つように俺の中で存在感を示すそれを、頬ずりするような気持で締めつける。

藤くん。大好きだよ。


はぁ、はぁ…

はあ…



藤「俺たち、離れた方がいいな」

直『…うん』








あの日、藤くんがヒロに言った「泣かせてもほったらかしても、何回でもやり直す」。

あれは真実だ。

でもそれを本当に実行するなら、適度に距離をとった方がいい。


別れるという意味じゃない。

でも今みたいに寝食を共にして、それこそ死ぬも生きるも一緒みたいなやり方を続けたら、必ずまた限界が来る。


藤くんにもそれがわかったんだろう。

だから言ってくれたんだ。

俺の涙を見て、それでも一度言ったことを取り消すことはない、それが何よりの証拠だ。



直『藤くん。俺はね、あの時ヒロにこう言ったんだ』

藤「……」

直『俺が好きなのは藤くんだけだって。ヒロの気持ちは嬉しかったけど、俺は絶対藤くんとこに戻るって。たとえ藤くんが俺を好きじゃなくなってても…それでも俺は藤くんのものだって』



そう言ったら、藤くんが顔をゆがめた。

泣きそうなのを堪えて必死で笑おうとしてるみたいだ。

俺は泣きながら、藤くんがまだ俺の中にいる状態で、藤くんの全身の重みを感じながら、声をあげて泣いた。



直『藤くん、ごめん…俺が、バカすぎたせいで』

藤「ちげぇよ、そうじゃねぇ。俺が、自分のことで手一杯だから…」



こんなに泣いたら、布団がダメになっちゃう。

そう思うぐらい2人で泣いた。


離れる。でも絶対に別れない。

俺たちの関係を続けるために、この家を出よう。

誰にもわかってもらえなくても、これしかないんだ。




俺が19歳になった、10月9日。

それはガキ同士のままごとみたいだった俺たちの関係が、次のステージへ移った記念日でもあった。

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