第10話
翌朝、藤原は珍しく早い時間に目を覚ました。
まぁ前日は早いうちからさんざん恋人を抱き、そのまま抱きしめて眠りについたわけだから当然とも言えるが。
藤「はよ」
直『うおっ!?藤くんどうしたの、早いね!』
藤「うん、まぁ」
直『バイト?それとも何か他の…』
藤「別に用事はないけど、いい匂いがしたから起きた」
直『…そっか』
ぼさぼさの髪にまだ眠そうな目。それでも朝食を作る恋人をまぶしそうに見つめている。
直『じゃあどうぞ。コーヒーとパンと、トマトスープ』
藤「いただきます」
直『今日、スーパー行ってこないと。食材買わなきゃ』
あんな諍いのまま家を飛び出したせいか、直井は今朝台所に立つのが少し気まずかった。
でも冷蔵庫を開けたらほとんど料理をした形跡がなくて、つまりそれは藤原がここ数日まともな食事をとっていないことの証明で。
“あいつは俺がいないとダメだな!”と思ってしまうには十分な出来事だった。
藤「おまえバイトは?」
直『今日は休む。で、家のことやんないと』
藤「…そっか」
少し笑う藤原は以前と変わらないように見えたけれど、違うところもある。
午前中から起きていること。きちんと食べて笑っていること。どこにも視線をさまよわせず、恋人と向き合っていること。
直『んー、旨いね』
藤「……」
直『どした?まずい?』
藤「…やっぱ気になる」
直『?』
藤「おまえ、ヒロに何て言ったの?」
直『…内緒!』
慌ててパンを口に押し込み、直井は席を立った。
言えない言えない、絶対無理。本当のこと言ったら、変に調子乗らせちゃうかもしれないじゃん!
藤「じゃあ、これだけは答えろ。おまえ、ヒロと…」
直『何もなかったよ』
藤「ほんとか」
直『本当』
藤「信じていいんだな」
直『ゆうべ俺の体見たし、触ったでしょ。俺、後ろめたいことがあったら昨日抱かれてないよ』
藤「…そ、っか」
直『ま、やましいことが全くなかったとは言わないけどね~』
藤「だから!それ!何だよ、やましいことがないなら一体何なんだよ!」
うがぁっと襲いかかってくる彼をよけて、大口あけて笑った。
ああよかった。またこんな風に笑えていることを、3日前の俺に教えてやりたいよ。
直『うーん、じゃあね、藤くん!』
藤「あ?」
直『教えてあげないこともないよ。どうやってヒロに予防線張ったか』
藤「…そうか。それじゃ今すぐ」
直『俺の誕生日まで、俺に指一本触れずにいられたらね』
藤「がっ!?誕生日まで…って、おい!」
直『うんうん、あと2週間ぐらいかな。本当に俺のこと好きなら、それぐらい簡単だよねぇ~?』
藤「簡単…?無事に仲直りしてまた毎日ニコニコ無防備な体をさらすようになったおまえに半月も手を出さないことが簡単…?」
カレンダーを見て絶望の表情を浮かべている天才がいるが、知ったことじゃない。
俺が悩んだ分、それ以上にヒロを利用してしまった分(100分の1にもならないかもしれないけど)、ちょっとは苦しんでもらおうか。
直『それで、我慢して溜まってどうしようもなくなった状態で…俺を抱きしめてよ』
そう言って精一杯の強がりの笑みを浮かべたら、藤くんの表情が変わった。
すんごい意地悪そうな笑い方。強気になってる時の、俺が大好きな顔だ。
藤「覚悟しとけよ。おまえ、おかしくなるかもしれねぇぞ」
直『できるもんならやってみな。少しでも触ったらアウトだかんな』
藤「いや、案外おまえの方が我慢できないと思う。体が夜泣きして眠れないとか言い出しそう」
直『言うかぁああーー!!!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます