第23話

増「俺は謝らない」



ヒロがぽつんと呟いた。



藤「…何?」

増「俺は、好きな相手と関係を持っただけだから。絶対に謝らない」

藤「ざけんなっ…」



やっていることは結局3人とも同じ。

分かってはいても、衝動は止められなかった。

頭の奥から湧き出してくる得体の知れない感情が、ヒロを悪魔に仕立て上げる。


一発、いや何発でも殴ってやる。

そう思った時だった。俺の腕を必死で掴む手が見えた。



直『やめて!ごめんなさい!』

藤「…離せ」

直『お願い、やめて!絶対ダメ!本当に…ごめんなさいっ…殴るなら、俺を殴って…!』

藤「……っ」



目がくらむような怒り。誰に対してぶつければいいのかも分からない。

開き直ったようにこっちを睨み付けてくるヒロか?黙ったままの升か?それとも…



藤「…好きだって、言ってくれないのか」



今にもこぼれ落ちそうな涙とともに、かすれ声が聞こえてくる。



直『………、…ごめん…』

藤「…ごめんって、何だよ」

直『……』

藤「さっきからそればっかり!他に何か言うことねぇのかよ?あるだろ!言い訳でも何でもいいよ、俺でも、升にもヒロにでも!何かあんだろ!」

増「藤原!」

升「…もうやめろ。やめてやってくれ」



ヒロの声に重なって、升の声が聞こえてくる。

どうしてそんなに落ち着いてるんだろう。


こいつはいつもそうだ。

きっと心の中では物凄く色んな事を考えているはずなのに、考えに考えた挙げ句、それを表に出さない。



藤「おまえはどうしてこいつを抱きしめない?どうして、力尽くでも自分につなぎとめようとしねぇんだ!!」

升「それが出来たら!!」



怒鳴り散らす俺に負けないほどの大声。



升「…それが出来たら…どんなに良かったか…!!」



顔を伏せた由文が、声も出さずに泣いている。






これで終わりなんだろうか。どうしてこんなふうになってしまったんだろう。

何年か前は、全員が同じ学舎で同じ制服に身を包んでいた仲間だったのに。


ふらついていた俺の視線が止まった先は、もう『ごめん』すら言えず、苦しそうに涙を流し続ける由文だった。




ふと、その隣のカレンダーが目に入る。


…そうか。今思い出した。


今日はおまえの誕生日だったんだな。

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