~solitude~

side藤

第10話

本当なら今日も、同伴から通常の指名客、アフターまで予約が詰まった、フルコンボのはずだった。なのに。



直『は、ぁあっ…ふじ、く…』

藤「…由…」



俺は何をしているんだろう。

もうじき陽が沈むというのに。街を人工的な華やかさが彩る、夜の始まりだというのに。



藤「…っ、わり…俺…、いきそう…」

直『きもち、イイの?俺…そんなに?』

藤「…ああ…」



消音状態にした携帯電話は、振動ひとつ立てないまま、さっきからピカピカと光り続けている。

着信、メール、留守番電話。今度はどのお客様?



直『うれ、しぃ…すごく…あぁ、ん』

藤「ん…」

直『おれ…藤くんのこと、…っあ、ゃ、ぅあ!』

藤「…よし、ふみっ…俺も…ぁ、はぁっ」



人と肌を合わせることでこんなに満たされた気持ちになるなんて、初めての経験だった。

2人揃って仕事をサボっているという事実すら、お互いのために休んだと思えば、かけがえのない愛しさに変換された。



直『ふじくん、ふじくっ…』

藤「由、由っ…愛してる…」

直『あぁ!だめぇ…やっ、ああっ…!!』

藤「…ぅ、んっ…、くっ…!!」



高みに上り詰める時、お互いの中にお互いしか存在しない。

これは貴重なことなのか?


それとも、俺に“幸せ”の常識がないだけか?








眠りにつくまでのわずかな時間に、何となく髪を撫でたり、たわいもない話をしたり、身体をさすってやったりする。

これまで女性にしたこともないようなこと。



藤「なぁ、由文」

直『…んー?』



布団と髪の間に俺の腕を差し込み、形の良い頭を抱きしめた。



藤「あいつとも、こんなふうにしてるの…?」

直『……』



さっき、俺のものではない携帯の着信音が聞こえた。

きっとあいつからの電話だったんだろう。

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