第3話

直井由文。高校の同級生。

そして最近の俺にとっては、決してそれだけではない相手。



増「時間がたつのって早いよね。あいつも…あいつだけじゃないけど、みんな普通にサラリーマンやってるもん」



知ってる、と言いかけて、言葉を飲み込んだ。

こいつは俺たちの関係を知らない。過去のことも、現在のことも、何も知らない。



――時間です。


藤「………」



ボーイが俺たちを呼びに来た。きっと今日も指名三昧だろう、もうのんびり話をする時間はない。



――××様がお見えになりました。個室5番へご案内しています。


増「はい」



ヒロのお得意さんの名前だ。さりげなくチーフとネクタイを直しているところから見て、かなりの上客のはず。



――テーブル11番、ご指名です。


藤「ようこそいらっしゃいました」



従業員同士、無駄のない会話。邪魔にならない低い声色。

俺に向けられる笑みは、果たしてどこまで本物なのやら。



――ボトルをお持ちしました。

――あら、あなた新顔ね。

――はい。よろしくお願いします。

――ふぅん…良かったら、私の隣、どう?



ホストに大金をつぎ込む女性というのは、得てして自分がチヤホヤされたいタイプではない場合が多い。むしろ逆だ。



――ねぇ、今日は少し余裕があるのよ。贅沢をしたくて、貴方のところに来たんだけど?


藤「余裕か。気持ちが安定してるのは、イイことだね」


――野暮なこと言わないで。お財布に余裕があるって意味に決まってるじゃない。


藤「…そ」


――あら、どうしたの?乗り気じゃないの?


藤「そうでもないけど…でも、今日全部使っちゃうのはやめてほしい、かな」


――どうして?



不安そうな表情。

ほらね。金を落としていく立場でありながら、こうして俺たちの機嫌を取ろうとする人が圧倒的に多いんだ。



藤「いくら持ってきたのかは知らないけど…そうだな、今夜は半分までなら使っていいよ。で、残りの半分は」



なめるように目の前の酒を味わう。仕事と恋愛の境界線を感じさせないよう、赤らんだ頬にそっと触れる。



藤「また今度、外で会う時に使おう」


――もう。うまいんだから。

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