side藤

第2話

藤「おはよう」

増「おはよ」



ヒロが出勤してきた。

とはいえ、まだ営業開始時間というわけじゃない。何となく少し早めに来ては、こうやって喋るのが習慣になっているんだ。



増「今日は同伴じゃないの?」

藤「あぁ」

増「めっずらしー。№1がそんなんじゃ、この店つぶれちゃうよ。もっと頑張ってよ」



高校大学の同級生である俺とヒロは、学生の頃からこの店でアルバイトをしていた。


入ったばかりの頃は、なぜかセット売りみたいな扱いをされた。そうしたら、何が良かったのかそこそこ人気が出て、ソロとしても指名客が付くようになった。

その結果、店長から「卒業後も残らないか」と言われたわけだ。



藤「だったらおまえもやれよ。同伴でもアフターでも、断らなきゃいいだけだろ」

増「ん~…なんかそういうの、イヤ」

藤「あっそ」



世の中は何が起こるか分からないもので、なんと今では俺がこの店のトップ、つまり№1だ。

ヒロは売上にムラがあるものの、おおむね№3と言ったところか。でもそれは、結構凄いことだと思う。


特に話術が巧みなわけでもなく、ただ微笑みながら女性の話(主に愚痴とか悩みとか)を聞いて、共感して、相手の懐事情に合った酒を少しずつ注いで…


それだけなのに、リピーターが続出した。ヘルプで付いてる新人ホストの数が増やされたのが、動かぬ証拠だ。


要は、無意識のうちに気配りが出来ているということなんだろう。口説き文句やら殺し文句やら、格好つけた台詞回しには全く縁がないヤツなのに。


…色恋営業さえ厭わなければ、コイツはすぐ俺なんか軽く越すぐらいの成績を上げられるだろうな。



増「ま、そういう方面はそっちに任せてるから。刺されない程度に頑張ってよね」

藤「……」



俺自身、別に酒は強くないし、取り立てて女性との駆け引きがうまいわけでもない。ただ流されるままに、ここまで来たような感じだ。



増「そういえば、今日ずっとチャマと一緒にいたんだ」

藤「…え?」

増「チャマ。直井くんだよ、ほら、高校の時の」



そう言われて、どう答えて良いか分からなくなった。

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