第53話

ロウが私の額にキスをする。思わず仰け反った。揃えられた前髪を上げようとするので、無意識にロウを突き飛ばしていた。



「見ないで!」


「お、まえ……痛え」



爪が顎に突き刺さったらしい。



「ご、ごごめん!」



心拍数が上がる。嫌な記憶が蘇る。後から更新されたヒナ兄の言葉と共に。


額の痕は、人には見せられない。



「お前さ」


「な、なに」


「俺が見たことないとでも思ってんの? ソファーでグータラ寝てたやつのデコくらい見たことあるわ」



「!」



「なにその顔」


「そんな! 初耳! 驚愕! って顔。分かんない?」


「分かるわけねーだろ」



ドキドキした。

無駄にドキドキした。ロウに対してドキドキしたの久しぶりかもしれない。とか言ったら怒られそう。



「ロウさん」


「ん?」


「キスして」


「はいはい」



望むままに。

ロウの唇が触れる。


この唇で私を満たす。

彼の熱で心が温まる。



現実は寒い。



「帰ったらもっとラブラブしようね」


「はあ?」



全部無かったことにはできないことばかりだけど、私はこの先もずっとロウだけを愛してるんだろうなって思う。


罪の共有者。

私とロウの愛の形。


愛しくてたまらない。

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