第33話

「葉月を殺せない」



ヒナ兄は私のことをいつも大事にしてくれた。裏にどんな感情があろうと、ヒナタを好きでいようと、それすらも嘘だったとしても。



「ヒナ兄は、私が嫌い?」


「好きだよ」



たとえばこれが全て嘘だったとしても、悔いは残らないのかもしれない。本当であったり嘘であったり、誰に分かることなのか……。



第三者は知らない。

無知で無能で使えない。



テーブルから軽く飛び降りたヒナ兄が私の目の前にやってくる。身長差はそれなりにあって、見下ろされている感じ。



「ヒナ兄のことは私も好き」


「そう?」


「嫌いとか思ったことないよ」


「イイコちゃん」


「どこが?」



なんにも知らないくせして。私の感情は私だけのもの。私の指は私の指。私の肉は私だけの肉。私の血は私のモノ。



適当なことをして罪の味だけを残して、馬鹿なんじゃないかと思った。



だって、嫌い=憎いではないし、嫌い=好きでもないから。たとえばそこに嫌い≠殺意があったって構わないと思う。



「私はヒナ兄を殺したい」


「……へえ、なんでお前が俺を殺すの?」


「ヒナ兄は沢山嘘をついた。全部嘘だった。私のこと馬鹿にしてる? ロウを殺したかったのは、私に近づく人間だからだよね」



銃を持つヒナ兄の手をとって、私の胸元に銃口を突きつける。ヒナ兄は動揺した。



「私のこと好きなんだよね、ヒナ兄。好きってなに? 意味を教えて。私に近づくからロウを殺したい? 他人を殺したいほど私が好き?」


「違うよ、単純だな葉月は」


「だから教えてって言ってるの」




ヒナ兄の考えることが私にわかるわけないんだ。思考回路の違う人間。私とは違う人間性を持っているからこそ、理解したいけど理解出来ないことってある。

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