第14話
「ついに追い出されたかー、めでたしめでたし」
「けっ」
めでたくもなんともない。というか残念な話のはず。めちゃくちゃ笑顔で喜ばれてる。つらい。
「ロウって女好き?」
朝っぱらから煙草を吸う人間がここにもいた。
煙がモワモワと浮いている。壁紙が黒いから余計に目立っていた。
「まああいつが女好きなのは認めるけど、彼女出来たから私が出てきただけで」
「遠慮するタマかね、あんたが」
「言うねえヒナおじさん」
「お黙り!」
この人は女装している。というと語弊があるのか。もっと本格的に身体を女に変えていて、誰よりも“女”であることに拘っている。
おじさんと呼ばれると腹が立つらしいけど兄と呼ばれることに傷つくことはない、と本人は言っていた。過去に。
だって私、この人が男の姿の頃から知ってるし。普通にヒナ兄って呼んでたし。
まあつまり、ご近所に住んでいた幼馴染だ。
正直、初めて女になってるの見たときは絶妙なショック具合だった。本当、絶妙な。暫く口聞けなくて。
そんな時にこの人が“好きな人がいるから女になった”って言った時、ああ昔から特に気にしてた幼馴染のヒナタ君かーって悟った。
おかしいかもしれないけど、それで全部受け入れられた。私にもロウという人間がいるから。
好きな人に見てもらうためなら女にだってなれる。たとえ、別人を装っても。すげえなあこの人、みたいな。生きてる感半端なくて、好き。
「彼氏と別れたんだって?」
「なによ、もう少しロウの話聞かせなさいよ」
「いいって」
後で。
「ヒナタが忘れられなくてね」
「あ、ごめん」
「……今更気付いたの?」
「うん……ごめん」
ヒナコの服装はあの日着ていたソレだった。黒いワンピース。血が付いて取れなくなったっていうワンピース。
今日、命日だった。
偶然にも程がある。
ヒナタはもう、いないから。
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