第7話

嫌だ。

すごーくすごーく嫌だ。



ロウが彼女とここに住むの? 2LDKで。偶然にも一人ずつ部屋があって。でも彼女と同じベッドで寝るわけ。あり得ない。



私じゃなくなる。



寝室まで逃げてきた。

でもここはロウの部屋。


私が私の部屋に閉じこもったら、出たくなくなるしロウの顔も見られなくなる。


どうして私はこんなに面倒臭い女なんだ! くそう。頭カチ割りたい。



「ロウー、ローウー」



ロウロウロウ……ロウ?

どんな漢字だっけ。



「ローウ。ローウェル、ロープウェイー」


「うるせえ!」



リビングからやってきたロウが、部屋に入ってくるなり腕を引っ張って私をベッドに押し倒した。



「……!」


「なんだその顔は」


「驚いて開いた口が塞がらないの顔だよ」


「分かるか!」



いや冗談じゃないよ。冗談抜きで心拍数が上がってる。はやい。



普段緊張とかしないのに、不意打ちは狡い。最近は客観的に言う“セフレ”からも程遠いただの同居人だけど、このまま抱いて欲しいと思った。


ここにいられなくなるのは嫌だけど、好きな人には幸せになって欲しいみたいな善人気取りな自分もいるから。



せめて忘れられないようにしてやりたい。身体だけでもいいから。



「……葉月」


「?」



ロウは私の身体に必要以上に触れることはなかった。触れるだけのキスをして、離れていく。



ベッドの端に座ったらしい。

私に背を向けて煙草を吸い始めた。ライターのカチッという音が静かな寝室に響音する。



背中が遠い。

抱きつきたいのに、いつもなら飛びつくのに、触れるだけのキスのせいで出来なかった。



これで終わりだと言われている気分だった。私を抱けないくらい好きな人ができてしまったのだろう。だとしたらなんで、早く付き合わないの。



やっぱり優し過ぎるよね。




「好きな人がいるなら、行け行け」




行き場のない私に同情したのかな。私はやっぱり哀れだから、同情さえも嬉しかった。



どうでもいいはずの女にまで構ってるほど余裕があるわけないのにね。



何年見てきてると思ってんだ。私のストーカー力をナメるなよ。いやいや今のは自分怖すぎだろ。

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