メルリン
みっきり
第1話 —始まりの試練—
『プロローグ』
今、この本を読んでいる君は魔法にコンプレックスがある?魔法が苦手? 才能がない?
そうだよね。未来は不安だ。
でも、大丈夫。
私が経験した 素敵な魔法の可能性 について、ここに記そう。
君はきっと—— 君の人生の主人公だ。
【貴方に偉大なる魔法使い《メルリン》の加護があらんことを】
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『第1話 始まりの試練』
【100年前】
「急げ! 国王陛下に確認だ!」
王城の大広間に、鎧を纏(まと)った騎士たちの焦った声が響く。
「国王陛下、本当に……本当によろしいのですか?」
「かまわん」
国王は静かに頷いた。
この世界には 魔法の力を宿した《魔法石》 が存在する。 魔法石は火、水、風、雷といった様々な属性を持ち、人々の暮らしに欠かせないものとなっていた。 火の魔法石は料理や暖房に使われ、風の魔法石は洗濯物を乾かす。水の魔法石は井戸に沈めれば清浄な水を生み
魔法を使えない者でも、魔法石を通じて魔法の恩恵を受けることができた。
しかし——
その 全ての魔法を凌駕する伝説の魔法石 が存在が明らかになった
万物の願いを叶える【悠久の魔法石】
その存在が民へ告げられたその日から
世界は 魔法石を追い求める時代 へと突入したのであった
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【現代】アーカニア地方・アナトリア
活気あふれる大都市 空間が歪み、突如として魔法陣が現れる。 そして、その中から一人の男が姿を現した。
漆黒の髪を持ち、精悍(せいかん)な顔立ち。 旅の疲れか、無精髭がわずかに伸びている。
「ふぅ……」
「リンブラントさんだ!」 「おかえりなさい!」
街の人々が次々と声をかける。
リンブラントは微笑みながら、軽く手を挙げた。
「ただいま。いやぁ、クタクタだよ」
リンブラントが担いでいる袋には大量の魔法石が入っており、長旅だった事がうかがえた
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【魔法協会】
「リンブラントさん、魔法石の換金が終わりました」
受付嬢が柔らかい笑みを浮かべながら、彼に小袋を差し出した。
彼女はブロンドの長い髪を持ち、一部を三つ編みにしている。 全体的に温かみのある雰囲気の女性だ。
「こっちはいつものように」
リンブラントは小袋を受け取ると、 その半分以上を指定の小袋に入れ、受付嬢に戻した。
「施設へですね……。本当にいつも寄付までありがとうございます」
「子供たちを守るのが大人の役目だからね」
リンブラントは微笑みながらそう言い魔法協会を後にした。
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【夜】
「ただいま」
「おかえりー!」
扉を開けると、元気な声が響いた。
駆け寄ってきたのは、二人の子供。 黒髪で活発な少年、アーリン。 赤髪で優しい雰囲気の少女、アリス。
「アーリン、アリス。エラの言うこと、ちゃんと聞いてたか?」
「当たり前じゃん!」
アーリンが慌てて答える
すると、奥から赤髪に白髪が混ざった女性が現れた。
「まぁまぁ、何回も『早く寝なさい』って叱ったのは気のせいかしら?」
「エラ! 内緒って言ったじゃん!」
アーリンが頬を膨らませる。
そんな温かなやり取りの後、夕食の時間になった。 食卓には、火の魔法石を使って調理された料理が並ぶ。 風の魔法石を利用して乾燥させたハーブも添えられていた。
アーリンは目を輝かせながら言った。
「お父さん、旅の話を聞かせてよ!」
リンブラントが旅の話をすると、子供たちは大喜び。 そして——
「お父さん、僕、魔法使いになりたい!」
その言葉に、リンブラントはしばらく黙っていた。そして、静かに口を開く。
「……アーリンも、もう十五か」
真剣な眼差しで息子を見つめ——
「分かった。明日、試練を受けるんだ」
「ありがとう! お父さん!」
アーリンは飛び跳ねて喜び、アリスも微笑む。
「アーリン、ずっと魔法使いになりたいって言ってたもんね。よかったね!」
「絶対、お父さんを超える魔法使いになるんだ!」
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その夜、アーリンは試練の準備をしながら、ふとアリスに尋ねられる。
「ねぇ、もし【悠久の魔法石】を見つけたら、何をお願いする?」ふと、アリスが尋ねた。
アーリンは少し考えた後、静かに答える。
「……お母さんに会ってみたいな」
「そっか……私も、アーリンのお母さんに会ってみたいな」
「だから、そのために、明日の試練を絶対突破するんだ!」
「アーリンなら大丈夫だよ! おじさんの子なんだから!」
「おう!」
——そんな会話を、扉の外で聞いていたリンブラント。
彼は、静かに微笑んでいた。
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【試練の日】
「行ってくる!」
アーリンは力強く宣言し、森を抜け、山を登り
ついに、洞窟の前へ辿り着いた。
リンブラントが足を止めてアーリンに告げる
「ここだ」
「奥の祭壇で、魔界に繋がるゲートを開くんだ。鍵は——」
「魔力を使い、ゲートを開くことができたら、魔法使いとして認められるんだよね!」
「そうだ」
「よし!行ってくるよ、お父さん」
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アーリンは洞窟を進み、やっと最深部へ辿り着いた。アーリンの目の前には立派な祭壇が現れた。
両手を合わせ、体全身の魔力を集中させるアーリン
「ゴゴゴゴ……」
すると、空間が揺れ、別空間へと繋がるゲートが現れた。
「やった! これで僕も——」
だが、その時。
「え?」
突然アーリンの目の前に二つ目のゲートが現れた
「これも試練なのか?」
戸惑いながら、アーリンはゲートを覗く
その瞬間、強烈な力に引き込まれた。
「うわッッ!」
次の瞬間アーリンはゲートに吸い込まれて
別の空間に投げ出されていた
「イテテッ……」
アーリンはゆっくりと体を起こした。
(ここは……どこだ?)
あたりを見渡す。
──重苦しい空気が充満し、辺りは薄暗い。まるでこの世のものではないような不思議な空間だった。
「……石像?」
目の前には、四体の石像が並んでいた。 それはローブを羽織った人物の形をしており、まるで魔法使いのような姿をしていた。
(やけにリアルな石像だな……)
嫌な予感がする。この空間自体が、何かおかしい。
(早くここから出ないと……)
アーリンは来たゲートを振り返る
──が、そこで異変に気づいた。
「……!? ゲートが閉じてる!?」
開いていたはずのゲートは、こちらから元の祭壇に戻れなくなっている
「嘘だろ……!?」
アーリンの心臓が高鳴る。
「誰か!! お父さん!!」
必死に叫ぶが、声はむなしく響くだけだった。
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【一方その頃】
「さぁ、そろそろか」
リンブラントは洞窟の入り口に立っていた。
アーリンがちょうど試練を突破し、魔法使いとなった頃だろう。 そう思いながら、彼はゆっくりと洞窟の奥へと足を踏み入れる。
やがて、祭壇に到着するリンブラント。
「アーリン、おめでとう。今日からお前も立派な魔法使い……」
しかし──
「……ん?」
リンブラントの目が鋭くなった。
そこにあるはずのゲートが、"異様な"ものに変わっていた。禍々しい紫の光を放ち、通常のゲートとは明らかに異なる雰囲気を纏(まと)っている。
「これは……まさか……!」
リンブラントがゲートを覗き込むと──
「アーリン!?」
そこには、見知らぬ空間で立ち尽くすアーリンの姿があった。
さらに、その背後には……
「なんだ、あれは……!!」
大量の邪悪な魔物たちが、アーリンに向かって襲いかかろうとしていた。
「もしかして——チクショウ……!!」
リンブラントは即座に判断した。
「インベルタークス!!」
詠唱と同時に、リンブラントの体が光に包まれる。
──次の瞬間、彼とアーリンの位置が入れ替わっていた。
「お父さん!!」
アーリンが目を見開く。
目の前には──自分の代わりに魔物たちと対峙するリンブラントの姿。
「アーリン……見ればわかる。お前、魔法使いになったんだな」
「うん……だけど!」
リンブラントは静かに微笑む。
「アーリン……」
その瞳は、どこか優しげだった。
「お前には、お母さんの愛情を与えてやることができなかった……すまなかったな」
「お父さん!! 何を言ってるの!!」
「だが……エラが、お前を本当の息子のように可愛がってくれた」
アーリンの脳裏に、優しく微笑むエラの姿が浮かぶ。リンブラントは、真剣な表情でアーリンを見つめた。
「アーリン……」
『お前はアリスを守っていくんだ! いいな?』
「……うん。わかったよ、お父さん」
「そのためにも、たくさん冒険に出て、たくさん経験し、強くなるんだ」
「うん……!」
「アーリン──」
リンブラントは最後に、力強く言った。
「お前は、立派な魔法使いになれる!」
次の瞬間、ゲートが静かに閉じ始めた。
「お父さん!!!」
アーリンの叫びが響く。
しかし、もう手は届かない。
ゲートの向こうで、大量の魔物たちが一斉にリンブラントへと襲いかかる。
──リンブラントは、振り返らなかった。
ただ、静かに直面している状況を受け入れているようだった。
「……行け、アーリン」
そして、ゲートが完全に閉じる。
「お父さん……!!」
アーリンは泣きながら、その場に崩れ落ちた。
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