◆第21話 閉ざされた
「願い事をしてない子だって知ってたから、ちゃんと合宿で願い事をしなくちゃって思ったのよ」
隻海が死体を隠し終えて舞台を去った後に、舞台袖に隠れていた二人が出て来る。
舞台中央の床で銀花はまだ眠っている。
ガムテープを扉に貼りつける途中で気づいて一度密閉を解く。
犯人が持ったスマホが鳴ったりしたら困ると思ったからだ。
そしてお父さんが握っていた銀花のシグナルに離々が気づいたと言う。
なぜだか怒りが湧いて、離々はお父さんの腹を何度か蹴ったらしい。そしてシグナルを取り上げた時に銀花の眼が覚めて、慌てて二人は再び隠れる。
「シグナルがないシグナルがないシグナルがない」
「銀花、シグナルのことは忘れなさい」
「……うん、じゃあどうすればいい?」
「帰ろう、疲れたから布団に入って早く眠ってしまおうよ」
ふらふらと銀花が体育館を去った後に、離々と黒土は放送室の密閉を完了する――。
舞台の上で離々がナレーションを続ける。銀花に向いているようで、隻海に説明するような言い方だ
「お父さんが家を出てから、行先は分かってたので銀花がいる舞台に先回りしたんだ。だから、お父さんが舞台に来た時に私が出ていけば銀花が首を絞められることもなかっただろうし、他にもお父さんを止める方法は幾つもあった。だから……、私はわざとお父さんを止めなかったんだよ――」
次に黒土――まだ顔にタオルを巻いたままで言う。
「違う。俺の動きが遅れたんだ。身体が理由でゆっくりしか動けないのとは違う。怖くなったんだ。わずかな余命を惜しんだために動けなかった。だから、俺のせいだ」
二人が告げた後、重たい沈黙が舞台を包んだ。
**
「咄嗟に思いがけない力が出たのか、頭への当たり所が悪かったのかは分からない。よく覚えていないの。舞台袖に消火器があるのに目についただけだと思う。別のものを探す余裕もなかったし。今思えば、消火器をふつうに使って煙を浴びせかければ良かった。もう遅いことだけど。消火器を取って、速足で近づいて背後から振り下ろした。大きな音がしたのだけど消火器はちょっと凹んだだけだったから、元の場所……ほら、戻してある」
彼女の表情は悲しみに沈んでいる。
「ごめんね、銀花、離々。謝ってもどうしようもないけど、お父さんを殺してしまって」
不審者と同じだ、不審者より酷いと銀花たちはそれぞれ否定するけど隻海の心を癒すことはできない。
銀花が寝転んだままでいた床にやがて、他の3人も寝転んで天井にぶら下がる幾つもの幕を見上げている。
「いいこと思い付いた」
誰も返事をせずに天井を見たまま。
「俺が全部一人でやったということにして口裏を合わせておくのは……どうかな」
「嘘はもういいよ。院長に報告して言われたとおりにする。合宿がどうなっちゃうのか分からないし、気がかりだけど」
「待って」
銀花は口から声が出たが、その先がまだ言葉になっていない。
思案しながら言う。
「合宿はまだ終わっていないよ」
「まあそうだけど」
「だけどねえ」
銀花が半身を起こして急速に頭を回転させる。残された時間はわずかだ。
――私たちは願い事をしていないままでいいのだろうか?
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