僕の小さな小さな世界の本当の始まりに

暗闇の中でそれでもと這いつくばりながらも戦っていた僕に差したあの光を僕はもう忘れることはないだろう。あの光が僕を救い、導いてくれただから次こそは僕が何かを救う光になりたい、そう決意したんだ。


 森、むせかえるほどの木々の中に差す一筋の光の中に少年は倒れていた。

 小動物たちと、少年のみの時間の中に一つの足音が加わる。

 「ここが、森の奥かぁ確かに昼寝に最適かもね」

 

 金髪の少女であった。

 

 「うぅ、」少年が頭を押さえながら立ち上がる。「大丈夫か?クラリス、サーシャ」

 少年は自然とその言葉を発していた。 

 「くらりす?さーしゃ?」

 金髪の少女はその様子を見て硬直していた。

 少年が金髪の少女に気づき、言葉を発する。「えっ、」「あっ、こ、ここはどこですか」

 少女は困惑していた。「ここがどこ?何を言っているの?そんなのクラリスの森の中に決まってる」

 少しの沈黙の後、少女に向けてつぶやく「クラリスの森?がどこかはわかりませんがなにかその名前には親近感がわきます」

 少女はその突拍子のなさに、よけい困惑し少年に問いただす。

 「あなたは何?冒険者?それとも無謀な青年?」

 少年はその問いに答えようとして言葉を発する。

 「え、えーと、僕の名前はアレス、それから、それから」

 少年は言葉を発しようとするがその内心には焦りが渦巻く。

 (なんなんだ?名前以外のことが何もわからない、出身地も家族構成も今までどう生きてきたのかさえ)

 そんなアレスに少女は、焦りを落ち着かせるかのようにそっと話しかける。

 「名前がアレスなのはわかったから。それからなに」

 アレスは申し訳なさそうな顔でうつむきながらつぶやく。「わ、分からないです」

 「わからない?」

 「はい、自分の名前は出てくるんですが。それ以降が一切出てこない、、、です。」

 少女はそれを聞き少し考えると、納得したように笑う。真相がすぐに分かったようだった。

 「ふふっ、たぶん森の中で転んで頭でも打ったんだよ」少女は続けて、彼に教える。

 「それでちょっと記憶が飛ぶのはよくあることだし、大体は1日ぐらいで治るよ」

 少女のそんな言葉に、少年は無理やり納得しようと自分に言い聞かせる。

 「そうなんですか」その刹那、彼の意識外から少女がアレスに唐突に顔を近づける。アレスは驚き後ろに倒れる。

 少女はそんなことは小鳥のさえずり程も気にしていないかのように話し始める。

 「何もわからないってことは、この森の出口も、自分の家がどこかもわからないんだよね」

 少年は困ったように呟く。

 「ま、まぁそういうことになりますかね」

 少女はいたづらをする子供のような顔ではにかみ「それじゃあさ、今日は私の家に泊まっていかない?」

 アレスにそう問う。

 アレスにとって、この少女は怪しさの塊でもあったが少女はただ一人この何もわからない森の中で出会った意思疎通ができるなのだ、逃すわけにはいかない

 彼はその問いに肯定するために、頭を縦に振り「じゃ、じゃあお願いします」と返した。

 「じゃあ、いこっか」少女はその足を軽く動かし、歩き出す。

 鼻歌を歌いながら森の中を軽快に歩く少女の姿に見とれつつ少年は聞きにくそうにしながらも言葉を発する。

 「す、すいません。た、多分、聞いてなかったと思うんですけど。」

 前を向き。しっかりと息を吸って言葉を紡ぐ。

 「貴方の名前を教えてください」

 少女は予想もしていなかったような表情でぽかんとしている。少女の表情に彼は少し口を緩ませる。

 「そうだね、名前を名乗ってなかった」

 言いながら花びらの落ちるように振り向き、息を吸い、声を出し

 「私の名前はアルテイシア」アレスに向かってそう言った。

 「じゃあ、いこうか」

 「アルテイシアさん……」

 アレスは立ち止まりその名前を自分の心に深く刻みつけるように呟いた。

 「アレスくーん、どうしたのー早くいくよー」

 アルテイシアが振り返り叫ぶとアレスはかけ出し追いつく。アレスは森の中を歩きながらアルテイシアに気になっていたことを尋ねる。「アルテイシアさんはなんの仕事をしてるんですか?」

 彼女は少し考え口に出す。「私は駆け出し冒険者なんだー」

 アレスは疑問を顔に浮かべる「ぼ、ぼうけんしゃ?」

 「え、もしかして冒険者もわからない?」アルテイシアが口を開いて驚く。

 アレスは気まずそうに話す。「す、っすいません」

 アルテイシアは少し悩むと「なるほど、まずいなーそこまでとは思わなかったよ」「じゃあ、町に着くまでどこまでわからないのか知識のすり合わせをしようか」彼女の提案にアレスはうなずいた。

 ーーーそれから、10分ほど経ったころ。

 「こんなもんかなー、魔法とか技術の知識はあるのに地図とか常識についての知識はないとかどうなってるの君」

 少女は不思議そうにそう話すが

 「まぁいっか、とりあえずもう町につくよ」

 アルテイシアがそういうと、アレスは森を抜けた先を見つめる。

 のとき、アレスの胸を襲ったのは安心と郷愁だった。「なんか、懐かしいし安心する」

 アルテイシアは安心したような顔で彼を見て「そっか、じゃあやっぱり君の家はここにあるのかもね」「いこっか」

 入口に建てられた門に向かう。

 「冒険者証または何か身分を示すことができるものを見せろ」

 門番が常駐して出入国者を管理しているところからも町の発展具合がわかる。

 「はいはーい」アルテイシアは懐からなにかペンダントのようなものを取り出し、門番に見せる。

 門番はそれを見てうなずくとアレスのほうを見て「君も出しなさい」

 アルテイシアが僕の前に立ち、門番に説明する。「すいませーん、彼、森で頭うっちゃって記憶がないみたいなんですよ」

 この町ではそういうものに対する、対応がマニュアル化されているのか淡々と作業を進んでいった。

 最後に「今後は注意するように、また記憶が戻ったら必ず報告しに来るように」そう伝えられて、手続きを終えるのだった。

少女がアレスのほうを振り向き「よーし、これで帰ってこれたね。無事に帰ってこれたことを感謝するんだよ。じゃあ、次は今の私の宿か冒険者組合かってところだね」と少しふざけたような口調で言う。

 彼女は、少しふざけたようにしているがアレスにとってのそれは本当にありがたい事なのだ「ありがとうございます」

 アレスは頭を下げて感謝を伝える。

 彼女は鼻歌交じりながらもその純粋な善意について恥ずかしいかのように顔を赤くする。

 「じゃ、じゃあとりあえず私の宿にいこっか、今日はそこに泊まるといいよ」

 そのまま、街道を町の中を観察しながら歩く。アレスが物珍しそうにものを見ると、アルテイシアがそれを解説するのであった。

 そうして歩いていると彼女がある大きな建物の前で止まる。その上に、中ほど大雑把に立てつけられている大きな看板には『夜明け亭』そう大きく書かれていた。

 

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ストレンジジャーニー 河伝新 @daughterofthecosmos

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